ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No4

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概要

日本結晶学会誌Vol58No4

篠原佑也図6(A)DXTで観測される回折像の例.(B)002の回折点のθとφの時間発展.白ヌキがθに対応.((A)Example of a diffraction image in DXT.(B)Time-evolution ofθandφfrom two 002 diffractionspots. Open symbols correspond toθ.)Reproducedwith permission of the International Union ofCrystallography. 4)運動と,DXTで観測される回転運動との間には大きな差がある.この結果から,XPCSで観測されているダイナミクスの解釈として,局所的で不均一な応力の緩和に対応して歪みが生じるモデル34,35)の妥当性が示唆された.3.4今後の展望XPCSにより,これまで測定することが難しかったナノメートルからマイクロメートルの大きさに対応したダイナミクスが測定できるようになってきたが,その時間分解能は現状では検出器のフレームレートにより制限されており,ミリ秒程度となっている.XPCSがコヒーレントなX線を利用することを考えると,X線自由電子レーザーを活用することがまず考えられる.すでにLCLSやSACLAでXPCSが実施されているが,36,37)そのまま実施するとパルス間隔により時間分解能が定まってしまうため,時間分解能の観点からは必ずしも有効ではない.そこで,1つのパルスを2つのパルスに分割し,パルス間に時間差を設けることで(Split & Delay),38,39)ダイナミクスを測定する試みが進められている.40)この場合には,時間差のついた2つのパルスX線の散乱が重なり合って1枚の散乱像として検出される.パルスの時間間隔と試料のダイナミクスの特徴的時間との関係により,スペックル像のコントラストが変化するので,パルスの遅延時間を制御することで系のダイナミクスに関する情報が得られる.41)時間分解能はパルス間の遅延時間により決まり,ピコ秒からフェムト秒程度になるため,これまでXPCSの対象となっていたのとはまったく異なる時間領域のダイナミクスの測定に応用できる.またXFELを利用せずに,連続的なX線を用いてスペックル像のVisibilityの露光時間依存性を解析することで,ダイナミクスに関する情報を得るSpeckle Visibility Spectroscopyの検討も進められている.42,43)XPCSとは異なり連続的な測定は要求されないためフレームレートではなく1枚当たりの露光時間をどの程度柔軟に変更できるかが時間分解能を決定するうえで重要となる.高速なX線シャッターと検出器とをうまく組み合わせることで柔軟に時間分解能を変更させることができ,マイクロ秒領域のダイナミクスに適用できることが期待される.連続的な照射も必要としないので,照射損傷の観点からも応用が期待される.最近になって,放射光のバンチ特性を活かした核共鳴散乱の時間領域における干渉法を用いることで,100ナノ秒よりも遅い時間領域の測定が進められている.44,45)この場合には,核共鳴散乱を活用することでエネルギー分解能が非常に高いX線を用いているため,X線光子数を確保するためには角度分解能を高くしなくてもいいように比較的高角側の測定に対象が限定されている.さらなる測定効率や輝度の上昇に伴い,より角度分解能の高い測定が可能になることで,ソフトマターの小角散乱領域でのダイナミクス測定が発展していくことが期待される.4.おわりにX線輝度の向上と二次元検出器技術の発展に伴い,小角X線散乱を時間分割測定するのは当たり前になりつつある.しかし,本文中でも簡単に紹介したように,特にソフトマターは容易に照射損傷の影響を受けるため,時間分割測定をするためには,全部で何枚の散乱像を測定するのか,散乱像1枚当たりに必要な入射X線光子数,そのためにはフレームレートと1枚当たりの露光時間をどうするかといった実験条件を慎重に検討しないと,観察された散乱像の時間変化は単に照射損傷によるものだったということに容易に成り得る.この事情は光源の輝度が向上すると顕在化するとともに,試料に依存する課題でもあるため,結局のところ測定ごとに確認していくことが重要となるだろう.その一方で,光源および検出器の発展に伴い必然的にスペックル像を測定する機会が増すと考えられるため,今まで平均化に伴い失われていた構造揺らぎの情報が小角X線散乱の解析に活かされる機会が増すと期待される.本稿は雨宮慶幸教授(東京大学)との長年にわたる議論が基になっております.これまで長年ご指導ご鞭撻頂184日本結晶学会誌第58巻第4号(2016)