ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No4

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概要

日本結晶学会誌Vol58No4

ソフトマターを対象とした時間分割小角X線散乱測定技術の均一な試料を準備できる系に対しては,X線自由電子レーザーの発展に伴い今後の進展が期待される.X線自由電子レーザーを用いる場合には,時間分解能はX線のパルス幅で実効的に決まるため,フェムト秒領域の高速な現象の時間発展を追うことが原理的に可能となる.もう1つの方法は,X線を試料に連続照射して回折を連続的に測定する手法である.この場合には時間分解能は検出器のフレームレートが決定するが,現実には試料の散乱能や照射損傷にどの程度まで耐えられるかにより現実的な時間分解能が決まる.ソフトマターの小角X線散乱の場合には,対象が構造の不均一性や多分散性を有していることが多いために,試料ごとに時間発展を調べる必要があることが多いため,この時間分割測定が用いられることが多い.この場合の時間分解能に関しては,パルスX線やシャッターを用いた実験と比較すると後述のように遅くなるが,小角X線散乱が対象とするのは物質の大きな構造であり,原子・分子レベルでの時間変化と比較するとゆっくりとしており,時にはほかの分野からするとゆっくり過ぎるのではないか,という時間領域までもが時間分割小角X線散乱と称される.小角X線散乱測定は,二次元検出器を用いて実施されるのが通常である.これは異方的な構造発展を測定するためには二次元検出器が必要であることと,散乱角の小さな散乱を測定するために1台の二次元検出器を用いれば,検出器を走査することなく散乱像を広い角度範囲にわたって測定できるということによる.また等方的な散乱像の場合には,散漫な散乱像のS/Nを向上させるためには,方位角方向に適切な平均操作を行うことが有効である.このように二次元検出器を用いる場合には,時間分解能を決めているものは通常では検出器のフレームレートである.試料が溶液の場合や,繊維の紡糸過程5を測定する場合などには,Stopped flow測定)や,試料上での照射位置を変化させることで,実効的な時間分解能を向上させることは可能である.これまでに多くの検出器が時間分解小角X線散乱の検出器として用いられてきた.検出器の世界は日進月歩であり,例えば10年前の解6説)と比較すると,現在ではピクセルアレイ検出器を用いて測定されるのが実験室でも放射光施設でも一般的となってきている.この場合には検出器の時間分解能はkHz程度になる.しかし小角X線散乱実験でkHzの時間分解能で有意な散乱強度を測定可能な程度に入射X線強度を上げると,少なからず照射損傷の影響が顕在化するため,7,8)事前に時間分割測定をするのと同等の時間だけX線を照射して試料に構造変化などが生じないかの確認や,あるいは試料を動かしながら測定するといった工夫が必要となる.2.2時間分割二次元極小角X線散乱より散乱角の小さい散乱を測定することで,より大き日本結晶学会誌第58巻第4号(2016)な構造を測定することができる(極小角X線散乱,Ultra-Small-Angle X-ray Scattering:USAXS).このような測定にはきわめて高い角度分解能が要求されるため,従来はチャンネルカット結晶を走査することで散乱強度を一点一点測定するBonse-Hartカメラが使われてきた.9,10)放射光源などのX線輝度の上昇に伴いBonse-Hartカメラの測定時間も短縮しているが,より早い時間分解能を達成し,さらに異方的な構造発展を測定するためには,ピンホール型カメラを用いた二次元USAXSを利用するのが望ましい.このためには,発散角とビームサイズとが小さいX線の利用と,長い試料・検出器間距離が求められる.われわれはSPring-8のBL20XUにおいてUSAXS測定をこれまで実施してきた.11,12)測定系の模式図を図1 3)に示す.このビームラインではリング棟にある第1ハッチと中尺ビームライン実験施設にある第2ハッチとを利用することができ,約160 mの試料・検出器間距離を実現することができる.利用当初はある程度以上に定量的なデータをある大きさの散乱角にわたって測定するためにはImaging Plateを利用せざるを得なく,時間分割測定もPFで開発された方法を利用することで秒オーダーでの限定的なものしか実現できなかった.12,13)今では第2ハッチに設置した検出器を第1ハッチから制御することで試料に加える外場と同期した時間分割測定をすることができている.測定範囲に関しては,従来は23 keVのX線を用いて,1.5×10-3 nm-1<q<2.5×10-2 nm-1の領域で散乱像を測定してきた.ここでqは入射X線の波長をλ,散乱角を2θとしてq=4πλsin2θである.最近になって第1ハッチの試料上流に高調波除去のミラーを設置することで,8 keVのX線を用いた散乱実験を実施できるようになり,小角側の測定領域は,q>0.25μm-1まで広がった.3)測定例として,銅のメッシュ(G2000HS,Glider Grids,UK)からのUSAXS像を図2に示す.3)メッシュは1辺が7.5μmの正方形の開口が二次元状に配列しており,開口間の距離は5μmである.各メッシュの開口に対応した十字状の回折像と,開口間の干渉に対応した斑点状の回折像を確認することができる.図1 SPring-8のBL20XUにおけるUSAXSの模式図.(Schematic view of experimental setup at BL20XU,SPring-8.)Reproduced with permission of theInternational Union of Crystallography. 3)181