ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No4

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概要

日本結晶学会誌Vol58No4

新物質A(TiO)Cu 4(PO 4)4(A=Ba, Sr)における結晶カイラリティの強度とドメイン構造の相関表1ATCPO(A=Ba,Sr)のボンド長(単位はA).(Bondlengths of ATCPO(A=Ba, Sr)in units of A.)BTCPOとSTCPOにおけるボンド長は,A-O(2)を除いて誤差の範囲で一定である.A=BaA=SrA-O(1)2.884(7)2.871(6)A-O(2)2.740(7)2.603(6)Cu-O(1)1.945(6),1.954(6)1.938(5),1.966(5)Cu-O(5)1.937(7),1.921(7)1.929(6),1.926(6)P-O(1)1.557(6)1.553(5)P-O(2)1.534(7)1.533(6)P-O(3)1.532(7)1.519(6)P-O(5)1.532(7)1.537(6)Ti-O(3)1.958(6)1.960(5)もう1つ重要な点は,本系の結晶構造が多面体の頂点共有ネットワークで構成されている点である(図3).頂点共有ネットワークは辺共有や面共有ネットワークに比べて方向の自由度が高いため,結晶構造の骨格を保ちながら個々の多面体の向きを変えることが比較的容易にできる.Aサイト置換によって反強的回転歪みの回転角が変化すると,正方形領域αとβ内の原子を繋ぐ“のり”の役割を担うPO 4四面体には大きな負荷がかかると予想される.しかし,PO 4正四面体は最適な方向に自身を傾けることでその負荷をリリースできるため,結晶構造を安定に保つことができる.したがって,多面体の頂点共有ネットワークは,元素置換によるカイラリティチューニングを可能とするための重要な要素と考えられる.8.おわりに本稿では,新規カイラル化合物A(BO)Cu 4(PO 4)4が,元素置換によるチューニング可能なカイラリティをもったユニークな系であることを明らかにし,さらに,本系の定量的なカイラリティ強度がカイラルドメイン構造の出現様相と密接に関連していることを示した.この結果は,有機化学の分野で先んじて導入された「定量的カイラリティ」という概念が,物性物理においても重要な概念になり得ることを提起するものである.本稿では,カイラリティに由来する性質としてカイラルドメインの形成様相を取り上げたが,その他のカイラル物性とカイラリティ強度との相関を明らかにすることも意義深い.具体的な物性としては,光学活性や非線形光学効果,圧電効果などが挙げられる.また,本系はスピン1/2をもつCu 2+を内包する磁性体であるため,カイラリティ強度と磁気的性質の相関を探る上でも適している.これらの点について,現在,鋭意研究を進めているところである.また,本研究では,定量的カイラリティの評価方法として,反強的回転歪みにおける原子の回転角,およびCCM法を用いたが,これらの方法では別種の原子に対して個別のカイラリティ強度を割り当てざ日本結晶学会誌第58巻第4号(2016)るを得ない.異なる原子種をも包括し,結晶全体のマクロなカイラリティを定量的に記述する方法が望まれる.本研究は,木村剛教授(阪大基礎工),世良正一氏(阪大基礎工修士課程2年)との共同研究によるものです.また,科学研究費補助金(26610103,24244058,16K05449)の援助を受けて行われました.文献1)G. H. Wagniere: On Chirality and the Universal Asymmetry, Wiley-VCH, Weinheim(2007).2)S. F. Mason: Molecular Optical Activity and the Chiral Discrimination,Cambridge University Press, Cambridge(1982).3)S. C. Abrahams: Acta Crystallogr. A50, 658(1994).4)S. Muhlbauer, B. Binz, F. Jonietz, C. Pfleiderer, A. Rosch, A.Neubauer, R. Georgii and P. Boni: Science 323, 915(2009).5)Y. Togawa, T. Koyama, K. Takayanagi, S. Mori, Y. Kousaka, J.Akimitsu, S. Nishihara, K. Inoue, A. S. Ovchinnikov and J. Kishine:Phys. Rev. Lett. 108, 107202(2012).6)A. Neubauer, C. Pfleiderer, B. Binz, A. Rosch, R. Ritz, P. G.Niklowitz and P. Boni: Phys. Rev. Lett. 102, 186602(2009).7)S. Seki, X. Z. Yu, S. Ishiwata and Y. Tokura: Science 336, 198-201(2012).8)例えば,総説として, M. Petitjean: Entropy 5, 271(2003).9)H. Zabrodsky and D. Avnir: J. Am. Chem. Soc. 117, 462(1995).10)A. Zayit, M. Pinsky, H. Elgavi, C. Dryzun and D. Avnir: Chirality23, 17(2011).11)D. Gao, S. Schefzick and K. B. Lipkowitz: J. Am. Chem. Soc. 121,9481(1999).12)S. Alvarez, P. Alemany and D. Avnir: Chem. Soc. Rev. 34, 313(2005).13)G. A. E. Oxford, D. Dubbeldam, L. J. Broadbelt and R. Q. Snurr: J.Mol. Catal. A: Chem. 334, 89(2011).14)D. Yogev-Einot and D. Avnir. Tetrahedron: Asymmetry 17, 2723(2006).15)K. Kimura, M. Sera and T. Kimura: Inorg. Chem. 55, 1002(2016).16)K. Momma and F. Izumi: J. Appl. Crystallogr. 44, 1272(2011).17)S. Meyer and Hk. Muller-Buschbaum: Z. Anorg. Allg. Chem. 623,1693(1997).18)M. Ishida, Y. Endoh, S. Mitsuda, Y. Ishikawa and M. Tanaka: J.Phys. Soc. Jpn. 54, 2975(1985).19)M. Tanaka, H. Takayoshi, M. Ishida and Y. Endoh: J. Phys. Soc. Jpn.54, 2970(1985).20)R. D. Shannon: Acta Crystallogr. A 32, 751(1976).プロフィール木村健太Kenta KIMURA大阪大学大学院基礎工学研究科Graduate School of Engineering Science, OsakaUniversity〒560-8531大阪府豊中市待兼山町1-31-3 Machikaneyama-cho, Toyonaka, Osaka 560-8531, Japane-mail: kentakimura@mp.es.osaka-u.ac.jp最終学歴:大阪大学大学院博士課程専門分野:固体物性現在の研究テーマ:特異な構造ユニットを有する物質の合成と物性解明趣味:スポーツ観戦.最近は子供と遊ぶこと179