ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No4

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概要

日本結晶学会誌Vol58No4

新物質A(TiO)Cu 4(PO 4)4(A=Ba, Sr)における結晶カイラリティの強度とドメイン構造の相関(a) (b) (c)β左手系αアカイラル右手系αβCu b aPO(3)c(d) (e) (f)図5においても報告されており,18),19)それらとの関連も興味深い.マルチドメイン構造,右旋性および左旋性のモノドメイン構造をもつBTCPO結晶とSTCPO結晶の数.(Bar chart showing the number of BTCPO and STCPOsamples with a multidomain state and a mono domainstate of levo(L)and dextro(D)rotation.)(文献15)から引用.)5.カイラリティの定量化なぜ,BTCPOとSTCPOのカイラルドメイン構造の出現様相に違いが生じるのだろうか?Aサイトを占めるSrとBaの化学的性質は類似しているため,化学的な観点から満足な説明を与えるのは難しい.したがって,SrとBaのイオン半径の違い(8配位においてSrは1.26 A,Baは1.42 A)20)が原子配列,ひいては,結晶カイラリティに顕著な違いを生み出し,これによりカイラルドメイン構造の出現様相が変化すると考えるのが自然であろう.この仮説を検証するためには,カイラリティの定量化が必要不可欠である.カイラリティを定量化するためには,左右カイラル構造と最近接のアカイラル構造の原子配列の違いを見ればよい.そこで,図6に,BTCPOの左手系構造(a)と右手系構造(c),およびそれらを平均化して得られた最近接アカイラル構造(b)を示す.高対称な位置にあるBa,Ti,O(4)イオンはカイラル構造と無関係であるため,ここでは省いている.また,煩雑さを避けるため,カイラル構造に関与する原子のうちCu,P,O(3)のみを示している.ここで,結晶構造が正方形領域αとβの交互配列と見なせることに注意する.図6d~図6fに示した各構造の正方形領域αにおける原子配列を比較すると,アカイラル構造の原子位置を基準として,左手系構造では全原子が4回軸を中心に反時計回りに回転し,逆に右手系構造では全原子が時計方向に回転していることがわかる.さらに,図6aと図6cの比較から,正方形領域αとβにおける原子の回転方向は互いに反対になっていることがわかる.以上の原子配列の考察から,本系のカイラル結晶構造は,正方形領域αとβ内の原子が逆向きに回転した「反強的回転秩序」によって特徴づけられること日本結晶学会誌第58巻第4号(2016)図6(a)20回転角( o )図7? O(3)BTCPOの結晶構造のc軸投影図.(Crystal structuresof BTCPO viewed along the c-axis.)(文献15)から引用.)(a-c)左旋性,右旋性,および最近接アカイラルな結晶構造.簡単のため,Cu,P,O(3)原子のみを示す.灰色の点線は単位胞を表す.結晶構造は,黒の実線で区切られた正方形領域αとβの交互配列と見なせる.各正方形領域の中央には4回回転軸が走っている.(d-f)正方形領域α内の原子配列.(e)の実線は鏡映面を,(d)(f)の点線は原子変位により破れた鏡映面を示している.(d)のφO(3)はO(3)原子の回転角を表す.作図には結晶構造描画ソフトVESTA 16)を使用した.151050? STCPO▼BVCPO? BTCPOO(2)O(5)CuO(1)P原子StrongerchiralityO(3)(b)1.5CCMがわかる.これは,各原子の回転角φが,本系のカイラリティを定量的に表すよい指標であることを意味している.例として,O(3)の回転角φO(3)の定義を図6dに示しておく.以上を踏まえ,単結晶X線構造解析から得たBTCPOとSTCPOの構造パラメータを用いて計算した原子回転角φを図7aに示す.すべての原子の回転角がSTCPOにおいて大きいことから,STCPOはBTCPOに比べて大きな結晶カイラリティを有することがわかる.また,17BVCPOについても先行研究)で得られている構造パラ10.50CuPO(3)inversion center? STCPO▼BVCPO? BTCPOO(2,5)CuO(1)原子PO(3)原子の回転角(a)とContinuous Chirality Measures(b)により評価した定量的なカイラリティ強度.(Quantitative chirality strength evaluated by atomicrotation(a)and continuous chirality measures(b).)(文献15)から引用.)いずれの方法でも,カイラリティ強度はSTCPO>BVCPO>BTCPOの順となる.177