ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No4

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概要

日本結晶学会誌Vol58No4

電場印加下の強誘電体の構造研究線と分極曲線を示す.強誘電体特有のバタフライカーブとヒステリシスループが得られた.本セラミックスの伸びは0.16%,縮みは0.24%であり,これは同程度の電場が印加されたPb(Zr,Ti)O 3セラミックスの2/3程度と非常に大きい.また,抗電界はおよそ25 kV/cmであった(測定周波数は0.1 Hz).次に,静電場を試料に印加しX線回折パターンを測定した.静電場は図8dと図8hに示すように±50 kV/cmの範囲で変化させた.初めに+50 kV/cmまで増加させる図70.3BaTiO 3-0.1Bi(Mg 1/2Ti 1/2)O 3-0.6BiFeO 3セラミックスの(a)X線回折パターン(電場印加前,ω=5°)と(b)外形の電気歪み曲線と分極曲線.((a)X-raydiffraction pattern of the ternary ceramics atω=5°,prior to application of an electric field.(b)S-E and P-Eresponses of the ceramics.)ときはω=5°で測定し,その後,各静電場でω=5°と95°で交互に測定した.1つの回折パターンの測定時間は5分とした.印加静電場の強度を変化させたときのω=5°における回折パターンの110,111,200回折ピーク付近の拡大図をそれぞれ図8a,図8b,図8cに,ω=95°における110,111,200回折ピーク付近の拡大図をそれぞれ図8e,図8f,図8gに示す.いずれの回折ピークも静電場に応じてシフトすることがわかった.X線回折では,一般に,格子歪み,ドメイン反転,電場誘起相転移といった電場印加による応答は,それぞれ回折ピークのシフト,回折ピークの相対強度の変化,回折ピークの分裂として観察される.これより,本セラミックスの圧電応答はドメイン反転と電場誘起相転移ではなく,格子歪みに起因していると考えられる.しかし,図7bのヒステリシスをもつ分極曲線はドメイン反転の寄与を示している.この矛盾した結果は,本セラミックスの結晶系(擬立方晶系)に由来すると考えられ,格子歪みとドメイン反転は明確に分離できず,重畳されていることを示唆している.つまり,本セラミックスの化学組成は濃度相境界領域に位置しているので,例えば正方晶や菱面体晶のように分極方向が結晶系で明確に決まっておらず,熱力学計算で指摘されているように,分極方向はある自由度をもつと考えられる.16)そのため,電場印加中のX線回折パターンは,一般のドメイン反転による回折ピークの相対強度の変化ではなく,(あたかも分極回転のように)回折ピークの位置がシフトする.したがって,格子歪みと区別できない.各静電場におけるω=5と95°の110,111,200回折ピーク位置とブラッグの回折条件からそれぞれの面間隔を計算し,静電場が0 kV/cmのときの面間隔を基準に格子歪みを計算した.その結果を図9に示す.格子歪みはバタフライ型のヒステリシスをもつことがわかった.狙いどおりω=5°では圧電の縦効果が,ω=95°では圧電の横効果が観察された.縦効果では,図9aに示した格子歪み図8静電場の印加による0.3BaTiO 3-0.1Bi(Mg 1/2Ti 1/2)O 3-0.6BiFeO 3セラミックスの回折ピークの変化.(Diffraction patterns of the ternary ceramics as afunction of electric field.)ω=5°における(a)110,(b)111,(c)200回折ピークと(d)印加静電場の変化.ω=95°における(e)110,(f)111,(g)200回折ピークと(h)印加静電場の変化.日本結晶学会誌第58巻第4号(2016)図90.3BaTiO 3-0.1Bi(Mg 1/2Ti 1/2)O 3-0.6BiFeO 3セラミックスの格子歪みの電場依存性Lattice.(strain vs. electricfield curves calculated from 110, 111 and 200 peakshifts of X-ray diffraction patterns for the ternaryceramics.)(a)ω=5°(b)ω=95°.171