ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No4

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概要

日本結晶学会誌Vol58No4

電場印加下の強誘電体の構造研究ポンプ-プローブ型電場印加構造計測の概念図を示す.試料に印加される周期的な外部電圧とX線チョッパーの回転のタイミングを同期し,一周期のうちの任意の位相(遅延時間Δt)にX線パルスを照射する.1回のX線照射による回折強度はきわめて小さいが,各周期の各Δtで同様にX線を試料に照射し,それらの強度を繰り返しIPに記録することにより,時刻Δtの構造解析に十分な回折強度を得ることができる.したがって,SPring-8のシングルバンチからのX線のみをX線チョッパーにより切り出した場合,時間分解能50 psの測定が可能になる.電場印加しながらBaTiO 3単結晶の回折スポットを観測するため,BaTiO 3単結晶をサイズ5×2.5×0.1 mm 3の平板に加工し,両面に厚み20 nm程度の金電極をとりつけた試料を作製した.35 keV(波長:0.35 A)の高エネルギー放射光X線を用いた場合,X線は厚み0.1 mmのBaTiO 3結晶を8割程度透過することができるため,試料表面だけでなく試料内部の情報を含んだ回折線を検出することが可能である.また,高エネルギーX線の使用によりhigh-Q(面間隔dが小)スペースまで多数の回折スポットを観測することができる.したがって,最小自乗法による格子定数の決定や構造解析をする際に解析精度が大きく向上する.振動写真法によりIPに記録された回折パターンの一例を図4に示す.dの大きく強度の大きい回折スポットはもちろん,dの小さく強度の小さいスポットも十分な統計精度で測定されていることがわかる.このような試料を用い,強誘電体BaTiO 3の自発分極の方向を急激に反転させたとき,どのように格子歪みが変化するのかを明らかにするための実験を行った.図5に,試料に印加された電場と正方晶歪みの目安であるc/aの時間変化,この結果を説明するためのドメイン構造と結晶構造の模式図を示す.図3に示したポンプとしての外部電圧の波形は600 Hz(周期t 0=1,667μs),振幅12.5 kV/cmで交番する矩形波とした.この条件下では,ポンプ電圧により引き起こされた変化が~10 3μs以内で完了する現象を調べることができる.この外部電場により,BaTiO 3結晶中では,-P sから+Ps,+P sから-P sへの分極反転が周期1,667μsで繰り返し誘起される.本実験では,外部電圧と同期したX線パルスの時間幅(時間分解能)は4μsとした.外部電圧が負から正に変わった瞬間からの遅延時間ΔtでのみX線が試料に照射されるように遅延機構を用いてチョッパーを制御することで,任意のΔtでの回折パターンをIPに記録した.各時刻Δtで測定された回折ピークのうち面間隔d>0.4 Aの範囲の約600個のピーク位置を用いて最小二乗法による解析を行うことで,正方晶歪みの目安であるc/aの時間変化を決定した.図5の領域I(Δt<0)では試料全体が下向きの自発分日本結晶学会誌第58巻第4号(2016)図4図5イメージングプレート(IP)に記録されたBaTiO 3の回折パターンの一例.(Diffraction pattern of BaTiO 3recorded on Imaging Plate(IP).)BaTiO 3の時分割構造計測.上から,試料に印加されたポンプ電場,c/aの時間変化,格子歪みの時間変化の概念図,各時間帯のドメイン構造と結晶構造の概念図.(Time-resolved structure measurement ofBaTiO 3. Electric field applied in the c-axis of BaTiO 3as a pump, observed time-evolution of c/a, schematicviews of tetragonal lattice, domain and crystalstructures.)極をもっている.Δt=0で急激に電圧を正にすることにより試料中で分極反転が徐々に引き起こされ,十分時間の経過した領域VIでは分極反転は完了している.領域IとVIのc/aの値を比較すると,c/aはΔt=-3μsのときc/a=1.01100(3),Δt=827μsのときc/a=1.01098(4)で,両者は誤差の範囲内で一致した.分極が下向きの領域Iと分極が上向きの領域VIで格子歪みが等しいというこの結果は図2に示したとおりで,歪みが確かに精度良く決定されていることの証明となる.次に,領域IIは急169