ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No4

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概要

日本結晶学会誌Vol58No4

日本結晶学会誌58,167-173(2016)最近の研究から電場印加下の強誘電体の構造研究広島大学大学院理学研究科黒岩芳弘,森吉千佳子龍谷大学理工学部藤井一郎山梨大学大学院総合研究部和田智志Yoshihiro KUROIWA, Chikako MORIYOSHI, Ichiro FUJII and Satoshi WADA:Structural Study of Ferroelectrics under Applied Electric FieldTwo topics on the recent structural studies of perovskite-type ferroelectrics under applied electricfield are introduced. One is on the time-course measurement associated with the polarization reversalin a BaTiO 3 single crystal capturing the change in lattice strain of millionths of a second. The other ison the electric field induced large lattice-strain in pseudocubic Bi(Mg 1/2 Ti 1/2)O 3 -modified BaTiO 3 -BiFeO 3 lead-free piezoelectric ceramics. Both experiments are carried out at SPring-8.1.はじめに強誘電体は,第一義として格子系の物理学の研究対象である.したがって,物性の理解はしっかりした結晶構造の理解に基づく.この意味において,強誘電体は構造物性研究の恰好の対象である.結晶構造がわかれば物性をある程度推定することができる.例えば,ある強誘電体の結晶構造が4mmという極性点群に帰属する対称性をもつならば,自発分極P sの観測される方向は必ず正方晶のc軸方向であり,原子位置からP sの大きさを点電荷モデルにより見積もることができる.また,電場印加による構造歪みを考えるとき,c軸方向から電場印加した場合は正方晶の対称性を保ったまま構造歪みが変化し,a軸方向から印加した場合はβ角が90°からずれることで単斜晶になることなど,4mmのもつ圧電テンソルや電歪テンソルの成分をながめていると実験前におおよそ予測できる.1)従来,われわれの研究グループでは,放射光X線回折実験により,ペロブスカイト型酸化物を中心に,電子密度分布や散漫散乱を解析することで強誘電性の発現機構を基礎科学の立場から議論してきた.これまでは主に温度変化による相転移を議論してきた.一方,ペロブスカイト型酸化物強誘電体は,電子材料として電子部品に幅広く使用されている.高い比誘電率をもつ初めての安定な酸化物として,アメリカ,日本,ソ連によりほぼ同時に発見されたチタン酸バリウムBaTiO 3はその代表格である.日本での発見は,1944年に小川建男と和久茂によってなされた.今なお積層セラミックコンデンサの主材料として使用されている.また,1950年頃から高木豊らのグループが先導して誘電特性を研究していたチタ日本結晶学会誌第58巻第4号(2016)ン酸ジルコン酸鉛Pb(Zr,Ti)O 3は,後にPZTと命名され,優れた圧電特性も示すことがJaffeらにより発見された.有害な鉛を含むにもかかわらず代替物質がないという理由で,現在もアクチュエータやセンサなどに使用されている.2)したがって,応用研究も視野に入れながら,今後,新奇研究分野開拓あるいはイノベーション創出という観点に立つならば,in situやオペランドという言葉で表現されるように,強誘電体の構造物性研究において電場印加下での結晶構造のしっかりとした理解も重要と考えるようになった.最近,われわれの研究グループでは,SPring-8の研究員と協力して単結晶構造解析ビームラインBL02B1と粉末構造解析ビームラインBL02B2に電場印加下で構造計測ができるシステムを構築した.特にBL02B1ではジッターがないようにうまく調整できたならば,50 ps程度の高い時間分解能で時分割構造解析ができるようになった.本稿では電場印加下のペロブスカイト型強誘電体の構造研究として2つの研究成果を紹介する.1つは,BL02B1で行ったBaTiO 3の格子歪みの時分割測定の成果である.BaTiO 3単結晶の分極方向とは逆向きから抗電場を超える大きさの電場を急激に印加して分極反転を起こさせると,格子は一度収縮してからきわめて大きく歪み,そのあと安定な歪み構造に向かって減衰振動することを観測した.もう1つは,BL02B2で行ったBaTiO 3-Bi(Mg 1/2Ti 1/2)O 3-BiFeO 3系圧電セラミックスの電場誘起格子歪みについての成果である.この材料は鉛を含まない圧電材料として期待されている.一見すると立方晶構造のように見える.しかし,直流電場を印加すると,電場誘起相転移などではなく結晶格子自体が大きく歪み,圧電ヒステリシスループを描くことを見出した.このよ167