ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

118 日本結晶学会誌 第58 巻 第3 号(2016)菅 倫寛構の解明は太陽光発電の効率の向上や人工光合成の研究への応用などにも繋がると期待されている.これまでの分光学的および生化学的な研究から,植物のLHCIは4つの膜タンパク質Lhca1 ~ Lhca4から構成される複合体であり,Chla,Chlb,複数種のカロテノイドを適切に配置してエネルギーを高い効率で伝達するだけでなく,過度に蓄積されたエネルギーを熱として散逸させるクエンチングの仕組みも備えもつことが明らかにされている.しかし,PSI-LHCI超複合体は巨大な膜タンパク質複合体であるため,これまでに解析された高等植物のPSI-LHCI超複合体の結晶構造の分解能は3.3 Aにとどまり,3)-5)LHCIの発揮するこれらの機能を理解するには不十分であったため,原子分解能での結晶構造が待ち望まれていた.2.PSI の全体構造われわれはエンドウマメの葉から単離したPSI-LHCI超複合体を結晶化し,大型放射光施設SPring-8の高輝度X線を用いて回折データを分解能2.8 Aで収集した.結晶は空間群P21に属し,格子定数はa = 165.6 A,b =192.2 A,c = 175.1 A,β = 91.4°であった.非対称単位中に2つの超複合体を含み,溶媒含量とVmの値は50.4 %と2.48 であり,一般的なミセル状態で結晶化された膜タンパク質結晶(脂質環境下で結晶化されたLCPは含めない)と比べると非常に密で,良質な結晶パッキングであることが示唆された.非結晶学的対称とLHCI内の4 つのLhca(Lhca1からLhca4まで)の基本構造がよく似ていることを利用し,これら8 つをすべて平均化して初期位相の改良を行ったところ,モデル構築が十分可能な良質な電子密度を得た.最終的に分解能2.8 Aで結晶構造を決定した.6)結晶学的な統計値を表1 に示す.われわれの発表から遅れること1 ヶ月,海外のグループからも同じ分解能の構造が報告された.7)PSI-LHCI超複合体はLhca1 ~ Lhca4 の4つのLHCIサブユニットとPSI コアを構成する9 つの膜貫通サブユニット(PsaA,PsaB,PsaF,PsaG,PsaH,PsaI,PsaJ,PsaK,PsaL)および3つの表在性サブユニット(PsaC,PsaD,PsaE)からなる計16 つのサブユニットから構成され,長さ140 Aの親骨をもつ扇子のような構造をとっていた(図2).PSI コア複合体のうち,PsaHはちょうど扇子の要となり扇子の中骨に位置するPSIコアを固定しており,Lhca1 ~ Lhca4 は2つのヘテロ二量体Lhca1?Lhca4およびLhca2?Lhca3 を形成し,それらの間でさらにヘテロ二量体構造をとりPsaF,PsaJ,PsaK,PsaGの位置する側に扇子の扇面のように結合していた.PSI コアとLHCIとの相互作用はLhca1 とPSI コアのサブユニットであるPsaBおよびPsaGとの間,Lhca3 とPsaAおよびPsaKとの間ではストロマ・ルーメンの両面で顕著な相互作用が見られたのに対し,Lhca2 とPsaG間,Lhca4 とPsaF間ではストロマ側にわずかに相互作用が見られたのみであった.この結果,PSI コアとLHCIの間にはルーメン側において深い間隙が存在していた.この構造解析により,PSI-LHCI超複合体に含まれる,143 個のChla,12 個のChlb,35 個のカロテノイド(26 個のβカロテン(BCR),5個のルテイン,4個のビオラキサンチン),10 個の脂質分子(6 個のホスファチジルグリセロール,3個のモノガラクトシルジアシルグリセロール,1 個のジガラクトシルジアシルグリセロール),3 個のFe4S4 クラスター,2 個のフィロキノンのすべての位置および配置が正確に決定された.とりわけ,分解能の改善により,ChlaとChlbの区別ができたこと(両者の違いはChlのテトラピロール環内のC7位置がChlaではメチル基であるがChlbではフォルミル基となっている.(図3))やLHCIに含まれるカロテノイドの判別が可能となり,植物の光化学系において重要な機能である,光防御機構にかかわるキサントフィル回路において機能するカロテノイドであるビオラキサンチンの結合位置を決定できたことは機能の理解において大きな進展があったといえる.これらのうち,PSIコアには98個のChla,22 個のBCR,3個のFe4S4クラスター,2個のフィロキノンが結合していたのに対し,LHCIには45 個のChla,12 個のChlb,4 個のBCR,5 つのルテインと4 つのビオラキサンチンが結合していた.このうち,Chlおよびカロテノイドの数はこれまでの構造解析による報告とは大きく異なっていたが,3)-5)今回の結果は,結晶化された標品を用いたHPLC分析の結果やこれまでの生化学的な実験の報Data collection statisticsWavelength / A 0.97924Space group P21Unit cell / A a=165.6, b=192.2, c=175.1β=91.4Resolution / A 49.15-2.80(2.90-2.80)*No. of reflections 268,282(26,538)*Completeness / % 99.8(98.9)*Redundancy 7.5(5.7)*R mrg 0.21(2.79)*R pim 0.09(1.54)*CC1/2 0.993(0.244)*I/σ(I) 7.0(1.2)*Refinement statisticsR factor 0.211R free 0.248Average B / A2 73.3RMSD bond length / A 0.006RMSD bond angle / deg. 1.40Ramachandran plotFavored / % 96.2Allowed / % 3.7Outliers / % 0.1*( )内に最外殻の情報を記載.表1 回折実験と精密化の統計値.(Statistics for data collectionand structural refinement.)