ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

154クリスタリット日本結晶学会誌 第58 巻 第3 号(2016)ク質(促進拡散型の糖輸送体)をGLUTという.GLUTには14 種のサブタイプ(GLUT1 ~ GLUT14)が存在し,基質特異性や組織局在性が異なる.GLUT1は1976年にヒト赤血球膜から精製されてグルコース輸送体であることが初めて確認された.GLUT1はグルコースレベルの恒常性維持において重要な役割をもつほか,がん細胞においても顕著に発現量が高く,GLUT1によるグルコース誘導体の取り込み亢進部位の検出(ポジトロン断層法:PET)が,がん病巣の診断法として用いられている.GLUT5はGLUT1ホモログとしてcDNAが同定されたが,その後の生化学的解析からグルコースではなくフルクトースを特異的に輸送することが明らかになった.(京都大学大学院医学研究科 野村紀通)Heisenberg ChainモデルHeisenberg Chain Model隣接する2つのスピンi とjのスピン演算子をSi,Sjとし,これらのスピン間に等方的な交換相互作用Jが働く場合,系全体のスピンに関係するハミルトニアンはH=-JSi ・Sjで表される.このように等方的な交換相互作用に基づく磁気的相互作用のモデルをHeisenbergモデルと呼ぶ.Heisenberg chainモデルは,このモデルを一次元鎖内で隣接するスピンiとi + 1 に拡張したモデルであり,系全体のスピンに関係するハミルトニアンにおけるスピン演算子を3 つの成分に分離してH=-ΣJ[a(S(i x)・Si+1(x)+S(i y)・Si+1(y))+bS(i z)・Si+1(z)]と表した場合,a= b = 1に相当する.このほかに,a ≠b の場合は異方的Heisenberg chain モデルと呼ばれ,さらに,b = 0,a = 0 のように大きな磁気異方性を示す場合,それぞれXY chain モデル,Ising chain モデルと呼ばれる.S = 1/2 のスピンに基づくHeisenberg chain モデルでは,鎖内で隣接するスピン間に働く交換相互作用の違いによって,S = 1/2 uniform反強磁性鎖,S = 1/2 alternating反強磁性鎖(反強磁性的な交換相互作用の大きさが1 つおきに交替しているもの),S = 1/2 uniform 強磁性鎖のモデルが知られている.また,これら以外にも,S ? 1の一次元鎖や,スピンの大きさが異なるフェリ磁性鎖についてのモデルが知れている.(兵庫県立大学大学院物質理学研究科 満身 稔)スピンキャンティングSpin Cantingスピン間に交換相互作用が働く場合,スピンが平行(強磁性)あるいは反平行(反強磁性)の状態が安定化される.しかしながら,スピンが完全に平行あるいは反平行とはならず,180 °からずれて傾いた状態をとることがあり,スピンキャンティングと呼ばれる.このようにスピンが傾く原因として,(1)ジャロシンスキー-守谷(DM)相互作用,(2)遷移金属イオンなどの磁気異方性,フラストレーションなどによるスピン間の角度が0 や180°ではないノンコリニア(non-collinear)な磁気構造によるものが挙げられる.DM相互作用は,スピン-軌道相互作用を介して生じ,その大きさがスピンの外積Si× Sjに比例する相互作用であり,スピン間の角度が90°のときエネルギーが最低となる.実際のスピン系では,交換相互作用に加えてDM相互作用が働くので,スピン間の角度はこれらの相互作用の強さに応じて180°からずれて傾く.(2)では磁気異方性を示す遷移金属イオンが二種類の配向で並んだ場合,180°からずれて傾いた状態をとる.(3)三角格子などのフラストレーションが生じる系では,同じような強さの複数の磁気的相互作用が存在し,これらの相互作用が競合することによって,スピン間の角度が180°からずれて120°などに傾いた状態をとることが知られている.(兵庫県立大学大学院物質理学研究科 満身 稔)CAS CI 法Complete Active Space ConfigurationInteraction分子軌道計算において,基底状態にある分子の全波動関数は,反対称化された1つの行列式(Slater行列式)で表される場合が多い.これはHartree-Fock近似と呼ばれ,分子軌道計算の基本となっている.しかし,厳密には分子の全波動関数は,すべての励起状態を含めた複数の波動関数の重ね合わせ,つまり非常に多くの行列式の線形結合で表現されなければならない.これをFullCI(Configuration Interaction)法といい,高精度な分子軌道計算では必要とされる.ところが膨大な計算量となるため,一般的にはなんらかの制限を設けて実行される.CAS CI法はその1つであり,重要と思われる励起状態(行列式)のみをあらかじめ選別しておき(これをCAS:Complete Active Space という),その中だけでFull CI法を実行する手法である.(大阪大学大学院基礎工学研究科 北河康隆)