ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

日本結晶学会誌 第58巻 第3号(2016) 149双安定な多重機能性を示す一次元ロジウム-セミキノナト錯体の構造物性相関両方におけるシャープなピークは,正味の磁気モーメントの三次元磁気秩序に由来する自発磁化のためである.したがって,転移温度(TN)をχ’のピーク温度に基づいて14.2 K と決定した.一般に,スピンキャンティングは,磁気異方性や磁気中心間の反転対称性の欠如を必要とする反対称性交換相互作用(Dzyaloshinski?Moriya(DM)相互作用)から生じることが知られている.27),28)交流,直流磁化測定データについてのln(χT)vs. 1/Tプロットでは直線部分が存在し,異方性Heisenberg あるいはIsing的な一次元挙動の可能性を示し,観測された磁気異方性の結果と一致する.29),30)また,錯体分子間に対称性をもたない構造的特徴を考慮すると,DM相互作用も考えられる.したがって,スピンキャンティングの原因として,磁気異方性とDM相互作用のいずれの場合も考えられる.3の磁気的相互作用は一次元鎖が収縮する一次相転移を伴って,反強磁性的相互作用から非常に強い強磁性的相互作用へ変化する.したがって,圧力印加によるRh?Rh距離の収縮に伴う磁気応答に興味がもたれたので,磁化率の圧力依存性を調べた(図6).1.4 kbarまでの比較的弱い印加圧力によって,一次相転移温度が圧力の印加に伴い直線的に増加しながら,強磁性的な低温相が室温まで安定化することがわかった.この小さな摂動によって誘起される一次相転移温度の劇的な変化は系の双安定性を反映していると考えられる.また,3.6 kbar以上の圧力下では,錯体3 は別の相に相転移を起こし,強磁性的相互作用が消滅している.この相転移で考えられる原因について,次のDFT計算のところで議論する.2.4 DFT 計算錯体3の電子状態と一次元鎖内での異常な強磁性相互作用の起源を理解するために,強磁性を示す低温相の原子座標を用いたモノマー1,ダイマー1-8,トリマーモデル2-1-8について,密度汎関数法(DFT)により分子軌道計算を行った(図7,図8).まず,モノマーのSOMO(singly occupied molecular orbital)は3,6-DBSQ-4,5- (MeO)2??アニオンラジカルのπ*軌道に由来し,図9に示すように分子全体に非局在化している.また,スピン密度はロジウム原子だけでなく,カルボニル配位子まで広がっている.分子全体への広がりは,3,6-DBSQ-4,5-(MeO)2??とカルボニル配位子の分子軌道(MO)の対称性とエネルギーレベルがうまく折り合ったためであると考えられる.電気伝導性に大きく寄与するdz2軌道のエネルギーレベルは,α-SOMOレベルよりも-0.9 eV低い(図8).LUMO(lowest unoccupied molecular orbital)は,主としてセミキノナト配位子のπ* 軌道(90 %)からなり,Rh 4d 軌道とカルボニル配位子からのいくらかの寄与をもつ.次に,ダイマーモデル1-8 では,HOMO(highestoccupied molecular orbitals)は主となるセミキノナトπ* 軌道(52 %)に軸性のRh 4dz2軌道由来のdσ* 軌道(40 %)が著しく混じったものであり,そのエネルギーレベルはモ図6 錯体3 のχMT vs. Tプロットの圧力依存性.各測定は降温過程で行った.(Pressure dependence of χMTvs. T plots.)Reprinted with permission from J. Am. Chem.Soc. 136, 7026(2014). Copyright 2014 American ChemicalSociety.図7 強磁性を示す低温相の原子座標を用いたトリマーモデル.(Trimer model for DFT calculations.)Reprintedwith permission from J. Am. Chem. Soc. 136, 7026(2014).Copyright 2014 American Chemical Society.図8 UB3LYP計算に基づいて求めたモノマー1,ダイマー1-8,トリマーモデル2-1-8 のフロンティア軌道のエネルギー準位図.ロジウム原子,3,6-DBSQ-4,5- (MeO)2 配位子,CO配位子について,MIDI+分極関数,6-31G*,および6-31+G*基底関数をそれぞれ用いた.(Energy-level diagram of the frontiermolecular orbitals for the monomer 1, dimer 1-8, andtrimer 2-1-8 models.)Reprinted with permission from J.Am. Chem. Soc. 136, 7026(2014). Copyright 2014 AmericanChemical Society.