ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

日本結晶学会誌 第58巻 第3号(2016) 147双安定な多重機能性を示す一次元ロジウム-セミキノナト錯体の構造物性相関軸に沿って積層した中性の一次元鎖が集まって構成されている.226 KにおけるRh?Rh距離は3.0796(4)Aと3.1045(4)Aであり,[RhI (3,6-DBSQ)(CO)2]∞(1)と比べて,平均で0.186 A短い.18)鎖内で隣接するセミキノナト配位子の炭素原子とカルボニル配位子の酸素原子の間に,van der Waals接触距離(3.22 A)よりも短い距離が存在し,これらの配位子間に相互作用が存在する.ジオキソレン配位子の酸化状態に関して,そのC?O距離は酸化状態を反映し,セミキノネート状態では1.29(1)Aであるのに対し,カテコレート状態では1.35(1)Aであることが知られている.23)錯体3のジオキソレン配位子のC?O距離は平均で1.311(3)Aであり,さらに,その六員環には典型的なキノイド歪みが認められ,ジオキソレンの電子状態はセミキノネート状態であると考えられる.また,XPSスペクトルから,ロジウムイオンの酸化状態はロジウム(I)であり,錯体3は非磁性のロジウム(I)イオンとS = 1/2のスピンをもつセミキノネートラジカルアニオンから構成されている.低温相におけるRh1?Rh2とRh1?Rh2*距離は,3.0426(7)Aと3.0151(7)Aであり,短い,長いRh?Rh距離の順序が一次相転移に伴い入れ替わっている.一次相転移の起源を結晶構造から明らかにするために,2 つの結晶構造を重ねて描いたものを図3 に示した.一般に,プロトンドナー原子とアクセプター原子の間の距離がこれらの原子のvan der Waals半径の和よりも短ければ,水素結合が存在すると判断される.C…O接触では,その和は3.22 Aであるが,3.0 から3.8 Aの範囲のC…O接触は分子構造や結晶パッキングに影響を与えることから,弱い水素結合として判断される.24)錯体3において,隣接する一次元鎖のメトキシ基の間のC…O距離は比較的短く(室温相:3.465?3.654 A,低温相:3.562?3.679 A),弱いC?H…O水素結合の存在を示唆している.その結果,一次元鎖はこれらの弱いC?H…O水素結合によって三次元的に繋がっている.この一次相転移の最も重要な特徴は,相転移によって分子間水素結合のパートナーの交換が起こることである.Rh2原子に配位したセミキノナト配位子はRhO2C2平面から,約6°反っている.これに対し低温相では,セミキノナト配位子の反りの向きとメトキシ基の向きは逆向きとなっている.したがって,セミキノナト配位子で観測される異常な構造変化は,この相転移に伴う水素結合の劇的な再配列に関係している.さらに,このほかに顕著な室温相と低温相での構造の違いとして,室温相におけるロジウム原子とその周りの酸素と炭素原子の温度因子が一次元鎖方向に大きく伸びていることが挙げられる.この事図2 錯体3 の結晶構造.(a)室温相(226 K)における一次元鎖構造と(b)一次元鎖方向から眺めた錯体分子の重なりの様子.(c)低温相(162 K)における一次元鎖構造と(d)一次元鎖方向から眺めた錯体分子の重なりの様子.破線はvan der Waals 半径の和(C…O= 3.22 A)よりも短い分子間C…O接触を示す.(Crystal structures of 3 in the RT(226 K)andLT(162 K)phases.)Reprinted with permission from J.Am. Chem. Soc. 136, 7026(2014). Copyright 2014 AmericanChemical Society. 図3 (a)室温相(赤,226 K)と低温相(青,162 K)の結晶構造の比較.室温相と低温相の結晶格子の原点を重ねて表示.(b)室温相( 赤,226 K)と低温相(青,162 K)の一次元鎖構造の比較.室温相と低温相のRh1原子同士を重ねて表示.破線は隣接するメトキシ基間での分子間C?H…O水素結合を示す.t-ブチル基のメチル基は明瞭化のため省略.(Comparison of the crystal structures in the RT andLT phases.)Reprinted with permission from J. Am. Chem.Soc. 136, 7026(2014). Copyright 2014 American ChemicalSociety. 編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.