ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

142 日本結晶学会誌 第58 巻 第3 号(2016)増野敦信,馬込栄輔,森吉千佳子あると考えられる.六方晶LuFeO3は準安定相ではあるが,ペロブスカイト構造に転移するためには,1,000 ℃以上の加熱が必要であり,室温から数百℃の範囲では熱的に安定である.より焼結密度を上げることができれば,バルクでも強誘電性の確認ができるかもしれない.3.3 安定相六方晶Lu0.5Sc0.5FeO323)LuMnO3-ScMnO3固溶系(Lu1-xScxMnO3)はすべて六方晶である.36)それに対してFe 系の場合,ScFeO3 がビックスバイト構造であることが古くから知られていたためか,これまでLu1-xScxFeO3において物質探索は報告されていなかった.ビックスバイトScFeO3のユニットセルは,Sc3+,Fe3+を16個ずつ含んだ立方晶で,Sc3+とFe3+はランダムにサイトを占有しており,特に目立った物性は報告されていない.37)六方晶LuFeO3が無容器で直接結晶化し得たことは,六方晶相とペロブスカイト相の安定性が近接していることを意味している.Lu3+をSc3+で置換することによって,ペロブスカイト型構造をもう少し不安定化させると,六方晶相が安定相として得られるかもしれない.そこでLu2O3,Sc2O3,Fe2O3 をLu1-xScxFeO3の定比で混ぜて仮焼き後,空気中1,200 ℃ で焼結した.これらの試料について300 Kで放射光粉末回折実験を行った.Rietveld法による精密構造解析の結果,x< 0.4まではペロブスカイト相が安定相,x > 0.7 ではビックスバイト相が安定相だったが,その間の0.4 ? x ? 0.6の組成で六方晶相が得られた.結晶構造は六方晶LuFeO3 と同じ空間群P63cmの対称性をもち,Sc3+はLuサイトを占有することがわかった.表2 に決定したLu0.5Sc0.5FeO3 の結晶構造パラメータを示す.Lu1,Lu2サイトのSc置換率はそれぞれ仕込組成0.5に固定,ほかの結晶構造パラメータは六方晶LuFeO3と同様の方法で決定されている.Lu0.5Sc0.5FeO3の格子定数は,a = 5.86024(6)A,c =11.7105(2)Aであり,LuMnO3,LuFeO3よりさらにa 軸が短い.一方でc軸の減少は抑えられていることは,面間での電子反発の効果が強いことが示唆される.TN が162 Kとさらに上昇したのは,磁気的相互作用が増大したためである.また,図5に示すように,TNで比熱と誘電率に変化が見られ,磁性と誘電性に相関があることが明らかとなった.その後の研究で分極反転も確認されたことから,Lu0.5Sc0.5FeO3は磁性強誘電体であることがわかった.38)3.4 準安定相六方晶Lu1-xScxFeO324)Lu1-xScxFeO3 は0.4 ? x ? 0.6で六方晶相が安定相であり,x = 0 で準安定相ではあるが六方晶相が得られる.したがって無容器法を用いれば,少なくとも0 ? x < 0.4 において,準安定相で六方晶相が得られると期待できる.そこでLu2O3,Fe2O3,Sc2O3をLu1-xScxFe1.1O3のFe過剰組成で混ぜ,仮焼きした試料に対して,無容器法を適用したところ,0 ? x< 0.8 という幅広い範囲で六方晶相が得られた.24) 結晶構造解析, 磁気測定の結果から,Lu0.5Sc0.5FeO3は無容器法,固相反応,いずれの手法で合成しても同一なものが得られていることが確認されている.図6には結晶構造パラメータの組成依存性を示す.Δl/l(0 =(l0-lx)/l0)はx=0におけるa軸,c軸の格子定数の値からの減少率である.モル体積は単調に減少しているが,a 軸長,c軸長で減少率Δl/l0 が大きく異なるのは興味深い.図5 Lu0.5Sc0.5FeO3 の(a)磁化率,(b)比熱,(c)誘電率の温度依存性.(Temperature dependence of the (a)zero-field-cooled( ZFC) and field-cooled( FC) molarmagnetic susceptibility χ at 1,000 Oe, (b) the heatcapacity divided by temperature, and( c) the dielectricconstant ε’ at 500 kHz for hexagonal Lu0.5Sc0.5FeO3.)表2 六方晶Lu0.5Sc0.5FeO3の結晶構造パラメータ(300 K).(Crystal structure parameters of Lu0.5Sc0.5FeO3 at300 K.)空間群はP63cm.格子定数はa = 5.86024(6)A,c= 11.7105(2)A.Atom Site x y z U(10-2 A2)Lu1/Sc1 2a 0 0 0.2698(1) 0.39(3)Lu2/Sc1 4b 1/3 2/3 0.2342(4) 0.41(3)Fe 6c 0.332(2) 0 0 0.29(2)O1 6c 0.308(1) 0 0.1693(5) 0.7(2)O2 6c 0.648(3) 0 0.334(2) 0.7(2)O3 2a 0 0 0.4788(9) 0.7(2)O4 4b 1/3 2/3 0.016(1) 0.7(2)