ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

日本結晶学会誌 第58巻 第3号(2016) 139日本結晶学会誌 58,139-144(2016)最近の研究から1.無容器法原料を加熱・溶融し,その後,冷却・凝固させる合成プロセスを考える.融液を冷却しても,固相の融点(Tm)に到達するとすぐに凝固が始まるわけではなく,いったん融点以下にまで温度は下がる.この状態を過冷却液体,融点からの温度差を過冷却度(ΔT)と呼ぶ.過冷却液体の状態から結晶化が始まると,潜熱を放出するため試料の温度は固相の融点まで上昇する.その後,融点で固液共存状態を保ちながら試料全体の凝固が進行し,液体がすべて固体に変わった段階でさらに温度は下がっていく.このときの試料の温度変化を,冷却曲線として図1a に示した.ほとんどの場合,結晶成長を開始させるきっかけとなるのが,融液と容器との間の界面(容器壁面)で発生する不均一核の生成であり,そこから試料全体に結晶が成長していくことになる.容器を使っている限り不均一核生成は避けられないため,過冷却度ΔTはそれほど大きくなれない.筆者らがこの十年弱の間用いてきた無容器法とは,融液を空中に浮遊させて保持したまま冷却・凝固させるという,文字どおり容器を使わない手法である.容器の壁面という接触界面がないことから,不均一核生成は極限まで抑制される.結果として結晶化しないまま過冷却液体状態が容易に維持され,きわめて深い過冷度に到達することができる.例えばSrTiO3の融点は約1,700 ℃であるが,1,000 ℃程度にまで下げても結晶化せずに融液のまま保持できる.こうしたきわめて深い過冷度の融液からは,これまで得られなかった物質が凝固する場合がある.1),2)例えば容器を用いている限り容易に結晶化していた組成の融液でも,無容器法を用いると結晶化せずに凝固,すなわちガラス化する.これまでに,従来のガラスの常識では考えられなかった組成のガラス化が報告されており,3)-7)その中で筆者らは超高屈折率,8)-14)超高弾性率,15)そしてきわめて割れにくいガラス16)などの優れた材料を見出している.無容器法は一種の究極的なガラス合成手法として認識されつつある.本稿ではしかし,ガラスではなく,過冷却液体から直接凝固する結晶相に焦点を当てた研究を紹介する.相図大過冷却融液から結晶化した準安定相六方晶鉄酸化物弘前大学大学院理工学研究科 増野敦信広島大学大学院理学研究科物理科学専攻 馬込栄輔,森吉千佳子Atsunobu MASUNO, Eisuke MAGOME and Chikako MORIYOSHI: MetastableHexagonal Iron Oxides Crystallized from Undercooled MeltsContainerless processing, which enables a melt to be levitated in air, prevents the meltfrom crystallization at the boundary between the melt and a container wall. Accordingly, deeperundercooling can be realized. Metastable hexagonal Lu1-xScxFeO3( 0 ? x ? 0.8) were directlysolidified from an undercooled melt by containerless processing with an aerodynamic levitationfurnace. Synchrotron X-ray diffraction measurements revealed that the crystal structure of thehexagonal phase was isomorphous to hexagonal ferroelectric RMnO3( R = rare earth ions) with apolar space group of P63cm. The weak ferromagnetic transition temperature increased from 150 Kfor x = 0 to 175 K for x = 0.7, which is the highest magnetic transition temperature among those ofhexagonal RMnO3 and RFeO3.図1 溶融・凝固プロセスの模式図と冷却曲線. (Schematicillustrations and cooling curves of melting andsolidification process.)(a)容器を用いた場合と(b)無容器の場合.