ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

日本結晶学会誌 第58巻 第3号(2016) 133日本結晶学会誌 58,133-138(2016)最近の研究から1.はじめに清涼飲料水,菓子類などに多く含まれるフルクトースの過剰摂取は,肥満・メタボリックシンドローム・脂肪肝など多くの生活習慣病につながる隠れた危険因子である.高フルクトース・コーンシロップ(別名:果糖ブドウ糖液糖,異性化糖)を大量に消費する米国ではこのことがすでに大きな問題になっており,フルクトースの過剰摂取に注意を促す臨床研究が相次いで報告されている.1)-3)生体内にフルクトースが取り込まれる際の「関門」になっているのがGLUT5という膜輸送体である.GLUT5は腸管上皮細胞の頂端膜に局在し,摂取した食物からフルクトースを選択的に吸収する働きをもっている( 図1).4)また,GLUT5は乳がん細胞で過剰発現しており,がん細胞の増殖に関与することも明らかになっている.5)GLUT5の基質輸送に伴う立体構造の動作原理,基質分子の選択的認識機構を解明することにより,細胞内に流入するフルクトース量を調節し,生活習慣病やがんを予防・改善する医薬品の分子設計に役立つ基盤情報が得られるものと期待される.本稿では,GLUT5が細胞外側に向けて開いた状態(以下で「外開き」という)と細胞内側に向けて開いた状態(以下で「内開き」という)の2 つの異なるコンフォメーションを可視化した筆者らの研究6)を紹介し,基質輸送に伴うGLUT5の構造動態と分子機構を解説する.哺乳類フルクトース輸送体GLUT5 の構造と分子機構京都大学大学院医学研究科 野村紀通,岩田 想Norimichi NOMURA and So IWATA: Structure and Molecular Mechanism of theMammalian Fructose Transporter GLUT5Excessive consumption of fructose in the Western diet is associated with an increased incidenceof metabolic disorders such as obesity and non-alcoholic steatohepatitis. A growing interest is focusedon the fructose transporter GLUT5. In this review, we describe crystal structures of the mammalianGLUT5 with its empty binding site exposed to either the extracellular side or intracellular side.By comparing structures in these two different conformational states, we show that the transportis achieved by a combination of global “rocker-switch”-like movement of transmembrane bundlesand local asymmetric “gated-pore”-like rearrangement. This structural information is now open fordesigning novel therapeutic drugs.毛細血管腸管上皮細胞小腸管腔基底膜低Na+ 高Na+高K+高Na+低K+GLUT2Na+ Na+Gluc GlucFruc FrucGLUT5SGLT1Gluc/Fruc Gluc/FrucNa+K+ ADPATPタイトジャンクションNa+/K+ATPase頂端膜b細動脈細静脈腸管上皮細胞絨毛毛細血管網乳び管 ( リンパ管)a図1 小腸上皮における単糖の吸収.(Transepithelial hexose absorption in the intestine.)(a)小腸の絨毛構造,(b)腸管上皮細胞における単糖の膜輸送.Glu:グルコース,Fruc:フルクトース.文献30)より改変して転載.