ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

130 日本結晶学会誌 第58 巻 第3 号(2016)菅 倫寛,秋田総理,沈 建仁,山本雅貴,吾郷日出夫的に解釈するとMn4はMn1に比べて溶媒に晒された環境にあるためX線による還元を受けやすく,その結果シンクロトロン構造ではMn4-O5が長くなって観測されたことが考えられる.しかし,XFEL構造においてもO5とMnとの結合距離がほかのオキソ酸素とMnの結合距離(1.8 ~ 2.1 A)に比べて著しく長いという特徴は変わらなかった.またXFELで得られたOEC構造を用いた理論計算によりO5をO2-と想定した場合にはO5はMn1もしくはMn4のいずれかと1.9 A以下の短い結合をもち,反対側のMn(Mn4またはMn1)とは結合しないという,左型構造(O5の左側にスペースができる)あるいは右型構造10),21)になること,XFELの構造に最も適合するのはO5の原子種をOH-と想定した場合であることが示されている.22),23)したがって,Mn4CaO5 クラスター中で見られるMn-O5の長い結合はOH-とMn1,Mn4との結合に由来するOECの機能に関連した特有の性質であることが考えられる(次節参照).XFEL構造において,OECを構成する4つのMnはいずれも六配位構造となっており,平均のリガンド距離はMn1が2.1 A,Mn2が2.0 A,Mn3が2.0 A,Mn4が2.1 Aとなっていた.Mn1とMn4の平均リガンド距離がMn2とMn3よりも少し長いのは,Mn1の2つの配位子O5とD1タンパク質の342 番目のアスパラギン酸残基の側鎖カルボキシル基由来の酸素,Mn4の2 つの配位子O5とW1の方向のリガンド距離が長くなっているためであり,この配位子の長さにおける歪みはJahn-Teller効果と呼ばれ,+3の価数をもつMn原子に特徴的なものである(図4).これらの知見に基づき,われわれはS1 状態の4 つのMn原子の価数が(Mn1,Mn2,Mn3,Mn4)=(+3,+4,+4,+3)であることを提唱した.これは最近報告されたOECを模倣した合成Mn4CaO4化合物におけるMnイオンの表2 XFELとシンクロトロンで決定したOEC内の原子間の距離と温度因子.(OEC interatomic distances and temperaturefactors obtained using XFEL and SR.)*( )内に標準偏差を記載.†CP43のアミノ酸.XFEL SRMn-MnMn1-Mn2 2.68(0.05)* 2.8Mn1-Mn3 3.20(0.08)* 3.3Mn1-Mn4 4.95(0.04)* 5.0Mn2-Mn3 2.70(0.03)* 2.9Mn2-Mn4 5.21(0.04)* 5.4Mn3-Mn4 2.87(0.03)* 3.0Mn-CaMn1-Ca 3.47(0.03)* 3.5Mn2-Ca 3.32(0.03)* 3.4Mn3-Ca 3.40(0.06)* 3.4Mn4-Ca 3.77(0.06)* 3.8Mn-OMn1-O1 1.80(0.05)* 1.9Mn1-O3 1.87(0.08)* 1.8Mn1-O5 2.70(0.01)* 2.6Mn2-O1 1.82(0.07)* 2.1Mn2-O2 1.83(0.07)* 2.1Mn2-O3 2.02(0.06)* 2.1Mn3-O2 1.90(0.12)* 1.9Mn3-O3 2.06(0.07)* 2.1Mn3-O4 1.90(0.02)* 2.1Mn3-O5 2.20(0.14)* 2.4Mn4-O4 2.02(0.05)* 2.1Mn4-O5 2.33(0.03)* 2.5XFEL SRCa-OCa-O1 2.61(0.03)* 2.4Ca-O2 2.67(0.06)* 2.5Ca-O5 2.54(0.08)* 2.7waterMn4-W1 2.25(0.08)* 2.2Mn4-W2 2.10(0.09)* 2.2Ca-W3 2.60(0.01)* 2.4Ca-W4 2.47(0.04)* 2.5O5-W2 3.00(0.09)* 3.1O5-W3 3.12(0.13)* 3.1W2-W3 3.26(0.09)* 3.3ligandMn1-E189 1.79(0.02)* 1.9Mn1-H332 2.12(0.03)* 2.2Mn1-D342 2.22(0.05)* 2.3Mn2-D342 2.13(0.04)* 2.2Mn2-A344 1.90(0.06)* 2.0Mn2-E354† 2.13(0.05)* 2.2Mn3-E333 2.06(0.03)* 2.1Mn3-E354† 2.13(0.02)* 2.2Mn4-D170 2.03(0.04)* 2.1Mn4-E333 2.08(0.02)* 2.2Ca-D170 2.36(0.08)* 2.4Ca-A344 2.43(0.01)* 2.5XFEL SRB-factorMn1 23.4(3.3)* 24.3Mn2 23.4(1.4)* 24.8Mn3 22.0(2.2)* 24.5Mn4 23.4(1.6)* 27.5Ca 33.0(3.8)* 26.0O1 23.3(3.6)* 23.8O2 22.6(2.1)* 26.3O3 26.3(6.5)* 25.2O4 20.7(2.1)* 27.2O5 17.7(2.3)* 26.1overall OEC 23.6(2.0)* 25.6all atoms 35.1 35.2図4 Mn1とMn4上のJahn-Teller 軸.(Jahn-Teller axes onMn1 and Mn4.)Nature 517, 99 (2015)および放射光 4, 177 (2015)から許可を得て改変したものを掲載.