ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

128 日本結晶学会誌 第58 巻 第3 号(2016)菅 倫寛,秋田総理,沈 建仁,山本雅貴,吾郷日出夫0.2 mm)を用いたSF-ROXの最大の特長は,高分解能を与えるPSIIの大型結晶を使用し,かつ回折に寄与する結晶の体積を大きくすることにより回折分解能を確保し,さらに振動領域の連続した一連の静止回折写真を取得することにより既存の構造解析の手法の適用が可能なところにある(SF-ROXの開発とその応用によるチトクロム酸化酵素の無損傷解析については本誌に掲載された平田邦生会員らの学会誌掲載論文18)を参照されたい).回折データが無損傷であることを担保するため,XFELパルスを照射するごとに照射位置を50 μm以上離して放射線損傷の及んでいない場所へ結晶を移動させながら,0.2°ずつ回転させて連続静止回折写真を取得することにより,回折データを収集した(図2).この手法により1 つの大型結晶から最大で数十枚の回折イメージを取得することができた.このとき,SACLAからの集光したXFELのビーム径は約1 μmであったが,この集光したXFELビームをそのまま結晶に入射すると,結晶にひび割れが入ったり,あるいは完全に割れたりすることがたびたび観察された.これは,単位面積当たりのフォトン密度が高すぎたために,結晶が物理的なダメージを受けたことによると考えられた.このような高密度X線による照射は,物理的ダメージにより1 つの結晶から複数枚の回折イメージを取得することを不可能にするだけでなく,“原子爆発”を引き起こす恐れもある.13)ごく最近の報告から数十フェムト秒の時間内であっても“原子爆発”が起こるほどの高輝度なXFELパルスでは構造変化が起こりうることが示唆されており,19)これらの問題を回避するため,フォトン密度を低下させることを目的としてXFELビームの集光位置より20 mm下流にて回折実験を行った.その結果,照射位置当たりのビームサ図3 XFELによって決定したOECの原子構造.(Atomic structure of the OEC by XFEL.)(a)OECの電子密度図.グレー,2mFo-DFc map(7 σレベルで表示.);ブラウン,2mFo-DFc map(15 σレベルで表示.);パープル,mFo-DFc map(6 σ レベルで表示.).OEC内のMnをグレー,Caをグリーン,オキソ酸素をシアン,O5をレッド,水分子をブルーで示す.(b)OEC内のMn-Mn距離.(c)Mn-Ca距離.(d)Mn-オキソ酸素,Ca-オキソ酸素,Mn-水分子およびCa-水分子の距離.Nature 517, 99( 2015)および放射光 4, 177( 2015)から許可を得て改変したものを掲載.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.