ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

日本結晶学会誌 第58巻 第3号(2016) 125植物光化学系I -集光性アンテナ複合体I 超複合体の結晶構造とが示唆される.また,ビオラキサンチンのルーメン側は3 個のChl(Chl a604,Chl a/b606,Chl a/b607)によって囲まれており(Chl 606およびChl 607部位は結合しているChlがChlaとChlbとLhcaサブユニットによって異なるため,a/b と示した.),BCループによって塞がれている.このBCループにおいてもLhca2/4とLhca1/3で違いが見られた.Lhca2/4のBCループは21 アミノ酸で構成され,Chl b607への結合は水分子を介している.これに対し,Lhca1/3のBCループはPSIコアと相互作用するためLhca2/4と比べて10アミノ酸余分に長くなっており,Chl a/b607 を直接結合している.またLhca2/4のBCループのほうが10アミノ酸分短いにもかかわらず,ルーメン側に晒されている酸性アミノ酸の数が多い.これらの構造的差異からLhca2/4のBCループのほうが構造変化しやすく,またルーメン側の酸性化を感知しやすいことが示唆され,Lhca2/4はLhca1/3と比べて,よりキサントフィル回路に関与していると考えられる.さらに,Lhca2/4とLhca1/3 ではビオラキサンチンとの水素結合の様式にも違いが見られている.ビオラキサンチンのルーメン側の端部はLhca2/4ではTrp 127(Lhca2),Trp 126(Lhca4)と水素結合しているのに対し,Lhca1/3ではTrp101(Lhca1)とTrp 130(Lhca3)に加え,Gln 105(Lhca1)もしくはThr 133(Lhca3)とそれぞれ水素結合を形成している.これはLhca2/4のL2部位のほうがビオラキサンチンとの親和性が低いことが示唆しており,このことからもLHCIの中心サブユニットにおいてキサントフィル回路が活発であると考えられる.6.おわりにこの研究により,PSI-LHCI超複合体の詳細な構造が明らかになり,その結晶構造に基づき,どのようにして巨大な超複合体が形成されるか,EETはどのような経路でPSI コアへ導かれるか,などのPSI-LHCI超複合体に関する長年の疑問に答えただけでなく,L2部位に結合するビオラキサンチンがキサントフィル回路に関与する非光化学的消光の役割を担っているという新たな提案も行うことができた.これらの構造基盤は,光エネルギーをより効率良く利用することのできる新規のエネルギー変換材料のモデルテンプレートともなることが期待される.しかしながら,解明すべき点はまだ多く残っている.とりわけ,PSI-LHCI-LHCII超複合体やPSI-LHCI- チトクロムb6/f 超複合体,PSII-LHCII超複合体など(この原稿の査読中に電子顕微鏡を用いた植物PSII-LHCII超複合体の立体構造に関する内容が報告された.19)),超巨大な複合体ではさらに高度に制御された光合成の機能が発揮されており,実に興味深い.今後の研究の展開に期待したい.謝 辞本研究は岡山大学のXiaochun Qin 博士(現所属中国科学院),沈建仁教授,中国科学院のTingyun Kuang 教授との共同研究であり,この場を借りてお礼を申し上げます.また自主性を尊重し,素晴らしい研究環境を提供して下さった沈建仁先生には心より感謝しています.回折実験はSPring-8 のBL41XU,BL44XUを利用させていただきました.ビームラインスタッフの方には感謝いたします.本研究では大学院生時の貴重な経験が大変役に立ちました.学生時代の恩師である月原冨武先生に感謝いたします.文 献1) P. Jordan, et al.: Nature 411, 909( 2001).2) N. Nelson: J Nanosci Nanotechno 9, 1709( 2009).3) A. Amunts, O. Drory and N. Nelson: Nature 447, 58( 2007).4) A. Amunts, H. Toporik, A. Borovikova and N. Nelson: The Journalof Biological Chemistry 285, 3478( 2010).5) A. Ben-Shem, F. Frolow and N. Nelson: Nature 426, 630( 2003).6) X. Qin, M. Suga, T. Kuang and J. R. Shen: Science 348, 989(2015).7) Y. Mazor, A. Borovikova and N. Nelson: eLife 4, e07433( 2015).8) D. J. Kyle, L. A. Staehelin and C. J. Arntzen: Arch Biochem Biophys222, 527( 1983).9) C. Le Quiniou, B. van Oort, B. Drop, I. H. van Stokkum and R.Croce: The Journal of Biological Chemistry 290, 30587( 2015).10) W. Kuhlbrandt, D. N. Wang and Y. Fujiyoshi: Nature 367, 614(1994).11) Z. Liu, et al.: Nature 428, 287( 2004).12) X. Pan, et al.: Nature Structural & Molecular Biology 18, 309(2011).13) X. W. Pan, Z. F. Liu, M. Li and W. R. Chang: Current Opinion inStructural Biology 23, 515( 2013).14) Y. Mazor, D. Nataf, H. Toporik and N. Nelson: eLife 3, e01496(2014).15) E. Wientjes, I. H. van Stokkum, H. van Amerongen and R. Croce:Biophysical Journal 101, 745( 2011).16) A. V. Ruban, et al.: Nature 450, 575( 2007).17) K. K. Niyogi, A. R. Grossman and O. Bjorkman: The Plant Cell 10,1121( 1998).18) M. Ballottari, et al.: Proceedings of the National Academy ofSciences of the United States of America 111, E2431( 2014).19) X. Wei, et al.: Nature 534, 69( 2016).プロフィール菅 倫寛 Michihiro SUGA国立大学法人岡山大学大学院自然科学研究科・異分野基礎科学研究所Graduate School of Natural Science andTechnology/Research Institute for InterdisciplinarySciences(RIIS),Okayama University〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-13-1-1 Tsushima Naka, Okayama 700-8530,Japane-mail: msuga@okayama-u.ac.jp最終学歴:大阪大学理学研究科修了,博士(理学).専門分野:構造生物学,タンパク質結晶学