ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

124 日本結晶学会誌 第58 巻 第3 号(2016)菅 倫寛アキサンチンとなり,励起状態のChlからエネルギーを奪って,熱に変換する.過剰な光によってタンパク質が破壊されるのを防ぐために過度に光化学反応が進行した場合,蓄積したルーメン側のプロトンをVDEが感知して負のフィードバックをかける仕組みである.これをキサントフィル回路という(図8).17)このような光阻害に対する防御機構はLHCIIにおいては古くから知られていたが,つい最近の,LHCIにおけるゼアキサンチンによる光エネルギー捕集の制御に関する報告まで,18)多くの研究者はLHCIにおいてキサントフィル回路は機能していないと考えていた.今回のPSI-LHCI超複合体の結晶構造は,L2部位にビオラキサンチンが結合しており,LHCIにおいてもキサントフィル回路が機能しているという直接的な証拠を示しただけでなく,Lhca1 ~ Lhca4サブユニットにおける効率の違いについても明らかにした.L2部位は膜貫通ヘリックスAとBが形成する溝のうちLHCIの内側,すなわちPSIコア側を向いている.PSIとLHCIとの間の相互作用はLhca1およびLhca3では強く,Lhca2 およびLhca4 では弱いため,PSI コアとLHCIとの間のルーメン側には深い間隙がある.この間隙の存在から,VDEのL2部位へのアクセスはLHCIの内側のサブユニットであるLhca2/4(Lhca2 とLhca4)のほうがLHCIの外側のLhca1/3(Lhca1 とLhca3)よりも容易であるこ図7 LHCIにおける補欠因子の配置.(Arrangement of cofactors in LHCI.)(a,b)LHCI全体構造.L1部位のルテインを緑,L2部位のビオラキサンチンを黄,N1部位のBCRをマゼンタ,L3部位のルテインを青,Chlaをグレー,Chlbをオレンジで表した.(c,d)Lhca1のステレオ図.(a,d)は膜上方向から,(b,c)は膜に平行な方向から見たもの.Science 348, 989(2015)を改変したものを掲載.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.図8 キサントフィル回路.(Xanthophyll cycle.)