ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

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概要

日本結晶学会誌Vol58No3

122 日本結晶学会誌 第58 巻 第3 号(2016)菅 倫寛フォールディングと集光性色素の配置をもつが,PSI コアとの相互作用の強さには大きな差異があり,その結果,それぞれのLhca サブユニットからPSI コアへのEETの効率は異なっているように考えられた.これらの相互作用の強さに基づき,LHCIからPSIコアへの最も可能性の高いエネルギー伝達経路として,1Bl/1Bsパス,1Flパス,2Jl パス,3Al/3Asパスを同定した(図6,表2).6)なお,これらのパスの命名由来はLhca サブユニット名,PSIコアサブユニット名,膜のストロマ側かルーメン側かによる.1Bl パスはLhca1のChl b607からPsaBの3 つのChl (Chla1231,Chl a1232,Chl a1233)へと繋がるルーメン側の経路で,最短のChl間の距離は5.5 Aである(図6c,表2).興味深いことに,これら3 つのChl (Chl a1231,Chl a1232,Chl a1233)はシアノバクテリアPSIではRed Chlであると提案されており,1)このうちChl a1233は植物PSIコアではシアノバクテリアと比べてその位置と配向を大きく変化させ,Lhca1 のChl b607からのエネルギー伝達を行うのに理想的な場所に存在していた.ただし一般的にはChlaからChlbへのエネルギー伝達はそれほど効率的ではないため,このb607 はエネルギー伝達を制限しているか,あるいは状況に応じて,この部位に結合するChlは図6 LHCIからPSIコアへのEET経路.(EET pathways from LHCI to the PSI-core.)(a)全体図.Red Chlを楕円で,LHCIIの結合サイトを円で表す.矢印はLHCIからPSIコアへのEET経路を表し,赤はルーメン側,青はストロマ側の経路を表す.ChlのMg原子の位置を球で表す.(b)Lhca1からPsaBへのストロマ側のEET経路である1Bsパス,(c)Lhca1 からPsaBへのルーメン側とストロマ側のEET経路である1Bl パスと1Bsパス,(b,c)ではPsaBの膜貫通ヘリックスd からe に繋がるループ領域を植物PSI は赤,シアノバクテリアPSI は紫で示した.(d)Lhca1からPsaFへのルーメン側のEET経路である1Fl パス,(e)Lhca2からPsaJへのルーメン側のEET経路である2Jlパス,(f,g)Lhca3 からPsaAへのルーメン側とストロマ側のEET経路である3Alパスと3Asパス.(a ~ b,d ~ f )は膜上から,(c,g)は膜に平行な方向から見たもの.シアノバクテリアPSIの構造での補欠因子の位置を比較のために黒で表した.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.Pathway Lumenal / Stromal Lhca Chl(Lhca) PSI core Chl(PSI core) distance(A)1 Red Chls2 Remarks31Bl L a1 b607 B a1233 5.5 N1Bs S a1 a603, a609 B a1218, a1219, a1802 7.5 Y Lhca41Fl L a1 a616 F a1701 8.2 N Lhca4(Red Chl)2Jl L a2 b607 J a1302 12.8 Y/N3Al L a3 a607 A a1114 5.8 N Lhca23As S a3 a603, a609, a619 A a1108, a1110 10.2 Y Lhca21 最も短いChlの端同士の距離.2 Red Chlが関与するかどうか.3 ほかのLhcaサブユニットからのエネルギー伝達がありえるか.( )はほかのLhcaサブユニットのRed Chlからのエネルギー伝達がありえるか.表2 LhcaサブユニットからPSIコアへのエネルギー伝達経路.(Excited energy transfer pathways from Lhcas to PSIcore.)太字はシアノバクテリアPSI と比べて大きく構造変化していたものを表す.