ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No3

ページ
11/58

このページは 日本結晶学会誌Vol58No3 の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol58No3

日本結晶学会誌 第58巻 第3号(2016) 121植物光化学系I -集光性アンテナ複合体I 超複合体の結晶構造から構成され,同じLHCファミリーである,LHCII10),11)やCP2912),13)と共通のフォールディングをしていた(図4).しかし,アミノ酸の保存性の低い領域である,ACループ(膜貫通ヘリックスAとCを繋ぐループ構造)およびBCループ(膜貫通ヘリックスBとCを繋ぐループ構造),そしてN末端部分では各Lhcaサブユニット間での顕著な違いが見られた.ACループはLhca1ではほかのLhca2,Lhca3,Lhca4と比べてずっと短くなっており,むしろLHCIIやCP29のそれと似ていた.またBCループにおいてはLHCIIやCP29のBCループに見られる両新媒性ヘリックスEがLhca1 においてのみ見つかり,膜貫通ヘリックスBの側へと移動していたが,Lhca2,Lhca3,Lhca4ではヘリックスEは完全に失われていた.Lhca1 のACループおよびBCループにおけるこれらの特徴的な領域はLhca1 がPSI コアのサブユニットであるPsaGとの相互作用に利用されており,Lhca1 以外のLhca サブユニットであるLhca2,Lhca3,Lhca4をドッキングさせても立体的な衝突が起こり超複合体を形成できない.またN末端領域ではLhca1,Lhca2,Lhca4はよく似た構造をしていたのに対し,Lhca3では短いヘリックスFが新しく見つかった.このLhca3の特徴的なN末端領域はPSIコアのサブユニットである,PsaAおよびPsaKと相互作用しており,さらにLhca3の膜貫通ヘリックスBのN末端側はひと巻き分が短くなってループ構造となりPsaAとの相互作用の強化に寄与していた.膜貫通ヘリックスBのN末端側とPSI コアとのストロマ側での相互作用はいずれのLhcaサブユニットにおいても見出され,Lhca1 はPsaBを,Lhca2 はPsaJを,Lhca3はPsaAを,Lhca4 はPsaFを認識して超複合体形成に寄与していた.さらにLHCIの両側に位置するサブユニットであるLhca1 とLhca3は前述のように,それぞれが特徴的な構造をもつ領域を備えることで,超複合体の安定性を強化していた.4.LHCIからPSI コアへのEET経路植物PSI-LHCI超複合体におけるEETの効率はほぼ100%と言われている.つまり,弱光条件においてLHCIの吸収するほぼすべての光子が励起エネルギーとしてPSI 反応中心に導かれ,電荷分離に利用される.2)LHCIからPSI コアへの高効率なEETの仕組みやその経路について多くの研究がなされているが,いまだ結論には至っていない.今回のPSI-LHCI超複合体の結晶構造から明らかにされたPSIコアとLHCIとの間に存在する集光性色素の位置関係に基づき,これまでの分光学的な研究による知見をふまえ,LHCIの捕集した光エネルギーをPSI コアへと伝達するエネルギー伝達経路の候補を提唱した.EETにおいて重要な役割を果たしているのが,エネルギーを効率的に捕捉することのできる,最も低いエネルギー準位をもつRed Chlである.真核生物PSI-LHCI超複合体の特徴として,Red Chlのほとんどは各Lhca サブユニットに存在するChl二量体a603 とa609であることがわかっている.ここで結晶構造から明らかとされた,Lhca1 ~4 におけるChl二量体a603 とa609 の周辺環境を図5 に示す.いずれのChl二量体a603 とa609 においてもChl のテトラピロール環のC-環とE- 環が平行に並び,よく重なっており,周囲には集光性色素が配置されているため,LHCI内の光エネルギーを集めるのに適した構造をしている.またこれらChl二量体a603 とa609 の結合位置はLHCIの内側部分,すなわちPSIコア側のストロマ面にあり,Chlのフィトール鎖部分が大きく突き出してPSIコアを固定しているため,Chl二量体a603 とa609 はPSI コアへのエネルギーを伝達するのに合理的な構造をとっていると考えられる.結晶構造から,各Lhcaサブユニットは共通性のある図5 LhcaサブユニットにおけるRed Chlの周辺環境.(Structural environments of Red Chls in Lhca subunits.)(a,e)Lhca1,(b,f)Lhca2,(c,g)Lhca3,(d,h)Lhca4 のRed Chlの周辺の構造.(a~d)は膜上から見たもの.(e~h)は膜に垂直にPSI コア側から見たもの.Science 348, 989(2015)を改変したものを掲載.