ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

264 日本結晶学会誌 第57 巻 第5 号(2015)秋本晃一複素数の形で表される場合に,散乱において各吸収端固有の位相のずれが現れ,その結果フリーデルの法則が破れる.そのため,中心対称性を欠いた結晶について回折実験を行うとき,結晶を構成する原子の吸収端近くの波長の入射X線を選択すれば,結晶の表側と裏側で反射強度に違いが生じ,極性判別を行うことができることになる.この異常分散効果を用いて極性結晶の極性を世界で初めて判定したのは西川ら12)で,このときZnS結晶の極性を判別した.この方法については参考文献15)で詳しく述べられている.3.c 面のGaN 結晶の極性判別これまでに多くの研究開発がなされているGaN結晶はウルツァイト構造をもつc 面((0001)面)の薄膜結晶である.GaN結晶の極性についての模式図を図2 に示す.図2 に示される基板はこれまで主にサファイアが用いられてきたが,最近ではGaN結晶そのものを基板にすることも可能になってきた.図2a はGa極性面を示し,図2bはN極性面を示している.本稿では,図2a のGa極性面を(0001)面とし,図2b のN極性面を(0001)面とした.本研究の目的はこれらの区別である.回折強度の計算例として,ウルツァイト構造のc面のGaNの(0002)面の反射強度のGaのK吸収端の波長に対する極性(裏表)による違いを図3aに示す.ウルツァイト構造のc面のGaNの極性を最も簡単に判定するには,表面側からの0002反射と基板側からの0002反射の回折強度を測定することだが,実際には基板があるために回折強度を比較することが困難な場合が多い.したがって,表面側から得られる回折強度のみで極性判別する必要がある.本研究では(1011)面の測定も行った.(1011)面の反射強度のGaのK吸収端の波長に対する極性(裏表)による違いを図3b に示す.(0002)面,(1011)面それぞれの回折強度の計算値を示した図3の低波長側をみると,0002反射強度のプロファイルは0002反射強度のプロファイルの下側にきているのに対し,1011反射強度のプロファイルは1011 反射強度のプロファイルの上側にきており,(0002)面と(1011)面のプロファイルは逆になっているという特徴をもつ.これは図4に示されるようにGa極性をもつ場合,(0002)面に関してGa原子がN原子よりも表面側にあるのに対し,(1011)面ではN原子がGa原子よりも表面側にある構造だからである.本研究では,(0002)面の回折強度を(1011)面の回折強度で割り,強度比をとることで,極性判別を試みた.図5に強度比の計算結果を-12-8-40481.185 1.19 1.195 1.2 1.205 1.21波長(Å)f ’ f ’’異常分散項図1 Ga原子のK吸収端付近での異常分散.(AnomalousX-ray dispersion effects areappeared near Ga-K edgeenergy.)図2 ウルツァイト構造をもつ薄膜GaN結晶.(A GaNthin film having wurtzite structure grown on a substrate(a)for Ga polarity and(b)for N polarity.)図3 (0002)面と(1011)面の回折強度の入射X線波長依存性(計算値).(Calculated diffraction intensitiesfor(a)(0002)plane and(b)(1011)plane are shownas a function of the incident X-ray wavelength.)