ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

ページ
54/64

このページは 日本結晶学会誌Vol57No5 の電子ブックに掲載されている54ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No5

312クリスタリット日本結晶学会誌 第57 巻 第5 号(2015)number contrastまたはZ contrast)とも呼ばれる.原子分解能観察が可能な微小電子プローブ条件では,原子位置が真空領域よりも常に像強度が高くなり,試料膜厚や焦点外れ量が変化しても,従来の高分解能電子顕微鏡像のようなコントラスト反転が起こらない.そのため,結晶粒界や化合物における原子配列の直接観察にSTEMHAADFは有効である.また,回折コントラストの影響が小さく,像強度が試料厚みの単調関数におおむね従うことから,結晶性試料の電子線トモグラフィー観察にも有効なイメージング法である.(九州大学大学院総合理工学研究院 波多 聰)平行ニコル,垂直ニコルParallel Nicols, Crossed Nicols元々は偏光顕微鏡観察における偏光配置を表す用語で,偏光方向を平行に揃えた偏光子と検光子の間に薄くスライスした試料を挟んで透過観察する配置を平行ニコルと呼ぶ.逆に,偏光方向を直交させた配置を垂直ニコルと呼ぶ.また,検光子を設けない配置をオープンニコルという.これらは,イギリスの物理学者・地質学者ウィリアムニコルが考案した偏光プリズムをニコル・プリズムと呼んだことに由来する.転じて,偏光ラマン分光においては,直線偏光したレーザー光を試料に入射し,それと同じ方向に偏光した散乱光のみを取り出して分光する偏光配置を平行ニコル,偏光解消した散乱光を分光する配置を垂直ニコルという.なお,分光学においては偏光方向をV(鉛直)あるいはH(水平)で表すことがあり,平行ニコルはVVやHH,垂直ニコルはVHやHVと記述されることがある.(立命館大学理工学部物理科学科 藤井康裕)FLIP/FRAP法FLIP/FRAP Technique蛍光ラベルした分子の細胞中での動きを蛍光の退色を利用して調べる方法.FLIP(Fluorescence Loss inPhotobleaching)法は,注目している部分の周囲に強い光を当てる(場合によっては繰り返し照射する)ことでそこにある分子の蛍光を退色させ,注目している部分の蛍光変化を観察する.注目している部分の分子が蛍光を当てた部分の分子と入れ替わっているならば,注目している部分の蛍光が減少する.FRAP(Fluorescence Recoveryafter Photobleaching)法は,逆に注目している部分に強い光を当てて退色させ,蛍光変化を観察する.分子の入れ替わりがあれば,蛍光が回復する.どちらの方法も蛍光の時間変化を解析することで,ラベルした分子の拡散係数,会合速度,解離速度などを算出することができる.(大阪大学大学院理学研究科 今田勝巳)飛行時間方法Time-Of-Flight(TOF)Method一般的には粒子の一定距離の飛行時間を計ることにより,その速度を知る方法をいう.パルス中性子源では陽子がターゲットに入射した瞬間に異なる波長(エネルギー)もった中性子が同時に発生する.中性子は物質波であるため,de-Broglieの法則に従い,その速度は波長に反比例する(λ =h/mv,λ:波長,h:プランク定数,m:質量,v:速度).中性子におけるTOF法ではこの性質を利用し,パルス発生時刻を起点として一定の距離に配置された検出器に中性子が観測された時刻(飛行時間)を記録することによりその速度を求めることができるため,その波長(エネルギー)を知ることができる.今回の例のような単結晶中性子回折においては,TOF法を用いることにより幅広い波長幅で逆空間を一度に走査することができるため,1 つの結晶方位でより多くのブラッグ反射を測定することができ,非常に高効率な測定が可能となる.(茨城大学大学院理工学研究科 海野昌喜)シナプスオーガナイザーSynaptic Organizer神経細胞は,シナプスと呼ばれる非対称の接着構造によって連結される.このシナプスの形成や維持を担うタンパク質分子をシナプスオーガナイザーと呼ぶ.シナプスオーガナイザーには,接着性のタンパク質と分泌性のタンパク質がある.このうち,接着性の分子は,膜外ドメインが自身やほかのシナプスオーガナイザー,または糖鎖などと相互作用することによって,神経細胞間の接着を担い,シナプス形成を誘導する.分泌性タンパク質は,接着性の分子と相互作用することによりシナプス形成を誘導する.(東京大学放射光連携研究機構 山形敦史)