ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

日本結晶学会誌 第57巻 第5号(2015) 309神経細胞間シナプス形成とその調節メカニズム様であった.12)さらに,時を同じくしてTrkC の細胞外ドメイン(LRR-Ig1ドメイン)とPTPσ Ig1?2 との複合体の結晶構造も報告された(図7C).9)これらの複合体構造を重ね合わせてみると,それぞれPTPδの異なる部位を認識しているにもかかわらず,ぶつかり合いを起こすことから,これらのシナプスオーガナイザーが同時にPTPδに結合することはないと考えられる.6.選択的スプラシング依存的相互作用制御の意味以上のように,PTPδとシナプスオーガナイザーとの相互作用は選択的スプライシングによって巧妙に制御されていることがわかったが,なぜこのような制御が必要なのであろうか? この答えの1つとしてわれわれはRPTPの識別に重要なのではと考えている.前述したように,ほ乳類ではRPTPは3種存在するが,それらのスプライシングバリアントの存在比は3 種で大きな偏りがある.マウスの発達初期段階の脳のcDNAを解析したところ,PTPδ はmeA9/B+が50%,meA6/B+も合わせると84%となり,IL1RAPL1との相互作用に適したバリアントの構成と言える.3)一方で,PTPσ はmeAの挿入ペプチドがないバリアントしか存在せず,IL1RAPL1との相互作用は考えにくい.LARではmeA6を含むバリアントが42%,meA-のバリアントが残り58%を占めている.meA6を含むバリアントのうちmeBを含むバリアントは全体の4%のみで,限られたLARのみがIL1RAPL1と相互作用しうると予想される.このようなスプライシングバリアントの偏りが,特定のシナプスオーガナイザーとの選択的相互作用を可能にし,複雑な神経ネットワークの構成に重要な役割を担っていると考えられる.7.まとめ一連のPTPδ とそれに相互作用するシナプスオーガナイザーとの複合体の結晶構造解析において,それらの相互作用が選択的スプライシングによって巧妙に制御されていることが明らかとなった.この選択的スプライシング依存的な相互作用はPTPδ だけでなく,ほかのシナプスオーガナイザー間の相互作用でも報告されている.13)-15)また,神経細胞において選択的スプラシングによるバリアントが顕著に豊富であることが報告されており,シナプスオーガナイザー以外のタンパク質でも選択的スプラシングによって相互作用や活性が制御される例が多く報告されている.16)これらの制御メカニズムの解明には,今回の研究が示すように,立体構造に基づいた解析が必要不可欠であり,今後の研究の発展が期待される.謝 辞本研究は,吉田知之准教授(富山大学医学部),植村健准教授(信州大学医学部),三品昌美教授(立命館大学)らとの共同研究であり,その先駆的研究がなければなし得なかった.結晶化や相互作用解析は当研究室の前田亜沙美・城島知子氏の尽力の賜物で,ここに感謝を申し上げます.また,構造解析,相互作用解析において,当研究室の佐藤裕介助教・伊藤(後藤)桜子助教に大変有用な助言をいただいた.また,回折データ測定における SPring-8,Photon Factory のビームラインスタッフの方のご協力に感謝します.文 献1) H. Takahashi and A. -M. Craig: Trends. Neurosci. 36, 522( 2013).2) J. -W. Um and J. Ko: Trends. Cell Biol. 23, 465( 2013).3) T. Yoshida, et al: J. Neurosci. 31, 13485( 2011).4) T. Yoshida, et al: J. Neurosci. 32, 2588( 2012).5) H. Takahashi, et al: Neuron 69, 287( 2011).6) J. Woo, et al: Nat. Neurosci. 12, 428( 2009).7) H. Takahashi, et al: Nat. Neurosci. 15, 389( 2012).8) A. Yamagata, et al: Nat. Commun. 6, 6926( 2015)9) C. -H. Coles, et al: Nat. Commun. 5, 5209( 2014).10) C. -H. Coles, et al: Science 332, 484( 2011).11) A. Yamagata, et al: Sci. Rep. 5, 9686( 2015)12) J. -W. Um, et al: Nat. Commun. 5, 5423( 2014).13) T. Uemura, et al: Cell 141, 1068( 2010).14) T. -J. Siddiqui, et al: J. Neurosci. 30, 7495( 2010).15) J. Koehnke, et al: Neuron 67, 61( 2010).16) B. Raj and B. -J. Blencowe: Neuron 87, 14( 2015).プロフィール山形敦史 Atsushi YAMAGATA東京大学放射光連携研究機構生命科学部門Structural Biology Laboratory, Life Science Division,Synchrotron Radiation Research Organization, TheUniversity of Tokyo〒113-0032 東京都文京区弥生1-1-1分子細胞生物学研究所本館3081-1-1 Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0032, Japane-mail: atsushiy@iam.u-tokyo.ac.jp最終学歴:博士(理学)専門分野:構造生物学現在の研究テーマ:シナプス形成の構造生物学趣味:山登り,キャンプ深井周也 Shuya FUKAI東京大学放射光連携研究機構生命科学部門Structural Biology Laboratory, Life Science Division,Synchrotron Radiation Research Organization, TheUniversity of Tokyo〒113-0032 東京都文京区弥生1-1-1分子細胞生物学研究所本館3081-1-1 Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0032, Japane-mail: fukai@iam.u-tokyo.ac.jp最終学歴:博士(理学)専門分野:構造生物学現在の研究テーマ:構造神経科学,ユビキチンシグナル趣味:壁登り