ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

308 日本結晶学会誌 第57 巻 第5 号(2015)山形敦史,深井周也作用となっている(図6C).PTPδ Ig3:IL-1RAcP Ig1 の相互作用は,さらに水素結合によって安定化している(図6D).PTPδ Ig3 のGlu286,Asp287 の酸性残基によるクラスターが,IL-1RAcPのLys94 ,Tyr58 とそれぞれ水素結合を形成している.IL-1RAcPのLys94の変異体や,それと対応するPTPδGlu286の変異体では結合が10倍近く落ちることから,この水素結合がPTPδ とIL-1RAcPとの結合に重要であることがわかる(図6B).PTPδ Ig3:IL-1RAcP Ig1 の相互作用面積は906 A2 と,PTPδ Ig3:IL-1RPL1 Ig1のそれ(694 A2)と比較すると,より広いことからもより強い相互作用であることを支持している.PTPδ Ig3:IL-1RAcP Ig1の疎水性相互作用に重要なPTPδ Tyr273に対する変異体や,それに対応するIL-1RAcPの疎水性残基郡(Ile69,Tyr71,Pro82,Phe85)への変異体が完全に結合を失うのに対し,PTPδ Ig2:IL-1RAcP Ig1の疎水性相互作用にかかわる残基への変異体(IL-1RAcPW27A変異体)は弱い結合を維持している(図6B).これは,IL1RAPL1の対応する変異体の結果と比べると逆であり,IL-1RAcPではIg1 とPTPδ Ig3 との相互作用は,PTPδ Ig2 との相互作用よりも優先的であることを示している.meBの4残基の挿入ペプチドは,IL1RAPL1の時と同様に,PTPδ Ig2:IL-1RAcP Ig1とPTPδ Ig3:IL-1RAcP Ig1の同時の相互作用を可能にするためのリンカーとして働いていると考えられ,これがmeBの欠如による結合能の低下を説明している(図1B).一方,IL1RAPL1との大きな違いとして,meAとmeBの両方がないバリアントにも弱いながらも結合できる(図1B).おそらく,IL-1RAcPではPTPδ Ig3 への結合が優先的であり,meBの欠如によってPTPδ Ig2 への相互作用が同時に形成されなくても,弱い相互作用が形成しうるためと考えられる.5.その他のシナプスオーガナイザーとPTPδとの複合体との構造比較上に述べた複合体のほかに,われわれはSlitrkのメンバーの1つであるSlitrk2 とPTPδとの複合体の結晶構造解析にも成功した.11)Slitrk の2つのLRRのうちN末端のLRR1がPTPδ と相互作用することをつきとめ,Slitrk2LRR1とPTPδ Ig1-Fn1 との複合体の結晶構造を3.35 A 分解能で解析した(図7A).Slitrk2 LRR1はPTPδ のmeBを直接認識しており,meBのArg236と水素結合を形成していた(図7B).この相互作用は,同時期に報告されたSlitrk1 LRR1とPTPδ Ig1?3 との複合体の結晶構造でも同IL-1RAcP Ig1E286D287K94Y58PTPδ Ig2(D)PTPδ Ig2IL-1RAcP Ig1Y273 F85I69Y71P82(C)IL-1RAcP KD (μM)WTW27AD30AK94AI69A/Y71A/P82A/F85A0.68 ± 0.0134.6 ± 0.0760.62 ± 0.0338.2 ± 0.054NDKD PTPδ (μM)WTR75AR196AY273AE286AmeB GSSGQLEQELRE x 2ELRE x 30.68 ± 0.0131.1 ± 0.0230.89 ± 0.17ND5.3 ± 0.520.64 ± 0.0360.91 ± 0.0191.5 ± 0.0383.8 ± 0.21(B)meA9IL-1RAcP Ig1PTPδ Ig2W27L153L185(A)図6 PTPδとIL-1RAcPの相互作用面.(Binding interfacesbetween PTPδ and IL-1RAcP.)(A)IL-1RAcP Ig1とPTPδ Ig2との相互作用(. B)表面プラズモン共鳴によって求められたPTPδ,IL-1RAcPそれぞれの変異体の結合の解離定数(. C)IL-1RAcP Ig1とPTPδ Ig3との疎水性相互作用(. D)IL-1RAcP Ig1とPTPδ Ig3との親水性相互作用.TrkC LRR-Ig1PTPδ Ig1?2Ig1Ig2IgLRR(C)PTPδ Ig1-Fn1meBIg1Ig2Ig3Fn1LRR1Slitrk2 LRR1(A)meBD167E215R236Slitrk2 LRR1PTPδ Ig2(B)図7 ほかのシナプスオーガナイザーとPTPδとの複合体の構造.(Structures of PTPδ in complex with other synapticorganizers.)(A)PTPδ Ig1-Fn1とSlitrk2 LRR1との複合体の結晶構造.(B)Slitrk2によるPTPδ meB結合の構造.(C)PTPδ Ig1-Ig2とTrkC LRR-Ig1との複合体の結晶構造.