ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

日本結晶学会誌 第57巻 第5号(2015) 307神経細胞間シナプス形成とその調節メカニズム惹起の後,プロテオグリカンによって結合サイトが奪われ,軸索伸長へとスイッチする可能性が考えられる.IL1RAPL1とIL-1RAcPのIg1?3間は一次配列上よく似ているが,Ig3間の相同性は低く(同一アミノ酸23%),IL1RAPL1のPTPδ Ig1 と相互作用する残基は,IL-1RAcPでは保存されていない.後で述べるPTPδ:IL-1RAcP複合体の構造解析で明らかになったように,この相互作用はIL1RAPL1特有のものであった.4.PTPδ Ig1-Fn2:IL-1RAcP複合体の結晶構造次に,PTPδ とIL-1RAcPとの複合体の結晶構造解析に着手した.IL1RAPL1と同様に,IL-1RAcPもpEBMultiベクターにクローニングし,HEK293F細胞を用いて発現させた.IL1RAPL1とは異なり,PTPδ Ig1-Ig2 に対しては結合が確認されず,少なくともIg3以降のドメインとの相互作用が重要であると考えられた.PTPδの複数のコンストラクトを用いて結晶化を行い,最終的にPTPδIg1-Fn2:IL-1RAcP複合体の結晶について3.25 A分解能で回折データを収集し,分子置換法による構造解析を行った(図5).PTPδ のIg1-Fn2の全体構造は,IL1RAPL1との複合体におけるPTPδ の対応する構造とよく似ている(図5B).また,IL-1RAcPの3 つのIg ドメインもIL1RAP1と同様にL字型に折れ曲がっている.IL-1RAcPのIg1ドメインを挟む形でPTPδ のIg2 とIg3 が相互作用している点も同じであるが,IL-1RAcPのIg3 はPTPδから大きく離れている.これは前述したように,IL-1RAcP Ig3 とPTPδ Ig1 の間に相互作用がないためである.4.1 PTPδ Ig2:IL-1RAcP Ig1の相互作用とmeAとの関連PTPδ Ig2 とIL-1RAcP Ig1 の相互作用は,PTPδ Ig2:IL1RAPL1と同様にPTPδ の2本のシートを中心としている(図6A).IL1RAPL1のTrp34に対する相互作用と類似して,IL-1RAcPのTrp27に対して疎水性相互作用が形成されている.IL1RAPL1との相互作用で重要な役割を担っていたmeA9 のArg196は,IL-1RAcPのAsp30(IL1RAPL1のAsp37に相当)と相互作用できる位置に存在するにもかかわらず,側鎖の電子密度がディスオーダーしており,相互作用に寄与していない.したがって,meA9はIL-1RAcPではIL1RAPL1の時ほど相互作用に寄与していないと考えられる.実際,PTPδ のArg196に対する変異体や,IL1RAPL1のAsp30に対する変異体を用いてもそれほど結合能が変化しない(図6B).また,meA6/B+やmeA3/B+のバリアントでも大きく結合能は変化しておらず,構造とよく一致する(図1B).4.2 PTPδ Ig3:IL-1RAcP Ig1の相互作用とmeBとの関連PTPδ Ig3:IL-1RAcP Ig1の相互作用は,PTPδ Ig3:IL1RAPL1Ig1と同様に,PTPδ Tyr273とIL-1RAcP Tyr71(IL1RAPL1Tyr77に相当)との間の疎水性相互作用を中心としているが,これらのTyr残基が主鎖のO原子と水素結合によって固定化され,IL1RAPL1と比べるとより密な相互Ig3Ig3Ig1Ig2IL1RAPL1PTPδ Ig1-Fn2meBPTPδ(meA3/B-) Ig1-Fn2(C)Ig1 Ig2Ig3Fn1Fn2meBPTPδ Ig1-Fn2(B)Ig1 Ig2Ig3Fn1Fn2PTPδ(meA3/B-) Ig1-Fn2(A)図4 PTPδ meA3/B-の結晶構造(. Crystal tructure of PTPδmeA3/B-.)(A)PTPδ(meA3/B-)Ig1-Fn2の結晶構造.(B)IL1RAPL1との複合体でのPTPδ のIg1-Fn2ドメインの構造.(B)PTPδ meA3/B- Ig1-Fn2とPTPδ:IL1RAPL1複合体の重ね合わせ.PTPδ Ig3の相対位置が大きく異なり,meBによるリンカー作用がなければIL1RAPL1との相互作用が難しいと思われる.PTPδ Ig1-Fn2IL-1RAcPIg1Ig2Ig3Fn1Fn2Ig1Ig2Ig3meAmeB12(B)1 2 3TMTIRIL-1RAcP1 2 3 1 2 3 4Ig ドメインFn ドメインTMPTPδPTPδ Ig1-Fn2(A)図5 IL-1RAcP:PTPδ複合体の結晶構造(. Crystal structureof PTPδ in complex with IL-1RAcP.)(A)結晶化に用いたコンストラクトの模式図(. B)IL-1RAcP:PTPδ-Ig1-Fn2の結晶構造.2つの相互作用面をそれぞれ楕円と番号で示す.