ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

306 日本結晶学会誌 第57 巻 第5 号(2015)山形敦史,深井周也る構造はRPTPのFnドメインで共通であると考えられた.9)PTPδ:IL1RAPL1複合体全体で,約206 Aの長さがあり,これは興奮性シナプスのシナプス間隙とよく一致する.このため,Fn3の折れ曲がりはこのシナプス間隙の長さと一致させるために重要であると考えられる.3.PTPδ とIL1RAPL1の相互作用PTPδとIL1RAPL1の3つの相互作用面のうち,PTPδ Ig2とIL1RAPL1 Ig1の相互作用面とPTPδ Ig1とIL1RAPL1Ig3 の相互作用面についてはIL1RAPL1:PTPδ Ig1?2 の構造を,PTPδ Ig3 とIL1RAPL1 Ig1の相互作用面についてはIL1RAPL1:PTPδ の構造を基に議論する.3.1 PTPδ Ig2:IL1RAPL1 Ig1の相互作用とmeA との関連まず,PTPδ Ig2:IL1RAPL1 Ig1の相互作用では,PTPδのIg2内の2本のβシートを中心に疎水性相互作用と水素結合の両方が形成されている(図3A).meA9の挿入ペプチドはこの2 本のβ シートの先端とターン部位を形成している.IL1RAPL1のTrp34 に対してPTPδ のLeu153やLeu185が囲む形で疎水性相互作用が形成されている.表面プラズモン共鳴による相互作用解析では,Trp34 をアラニンに置換すると完全に結合が見られなくなったことから,この疎水性相互作用がPTPδ Ig2:IL1RAPL1 Ig1の相互作用に必須であるとともに,PTPδ Ig2:IL1RAPL1Ig1の相互作用がPTPδ とIL1RAPL1との相互作用に必須であることが確認された(図3B).さらに,いくつかの水素結合が形成されているが,特に注目すべきは,meA9(188Gly-Ser-Ile-Gly-Gly-Thr-Pro-Ile-Arg196)のArg196 がIL1RAPL1のAsp37と直接,水素結合を形成している点である(図3A).これらの残基に対する変異によって結合が著しく弱くなることから,meAによる相互作用の重要性が確認された(図3B).3.2 PTPδ Ig3:IL1RAPL1 Ig1 の相互作用とmeB との関連IL1RAPL1のIg1は,さらにPTPδ Ig3とも相互作用を形成している(図3C).この相互作用は,PTPδ のTyr273とIL1RAPL1のTyr 77 との疎水性相互作用を中心とするものである.Tyr273をアラニンに置換した変異体PTPδでは結合を5 倍程度弱くなることから,確かに相互作用に寄与していることが確認された(図3B).meBの挿入ペプチドは相互作用には直接関与しないが,PTPδ のIg3 をIL1RAPL1 Ig1との結合に適した位置に移動させうるためのリンカーとして働くことが構造から示唆された.実際,PTPδ(meA3/B-)のIg1-Fn2 ドメインを3.5 A分解能で構造解析した結果,Ig3 ドメインのIg1-Ig2に対する相対位置がPTPδ:IL1RAPL1複合体と比べると大きく異なっていた(図4).これを支持するようにmeB-のバリアントでは,PTPδ Ig3 の相互作用を失った変異体であるY273A変異体と同じ程度の結合の低下を示している(図3B).さらに,meBの4 残基の配列をGlu-Leu-Arg-GluからGly-Ser-Ser-Gly やGln-Glu-Glu-Glnへと変化させても結合に影響はないが,meBと同じ配列を繰り返して3倍の12残基に伸ばした場合には結合の低下が見られ,meBが結合に適したリンカーとして働くことを示唆している(図3B).3.3 PTPδ Ig1:IL1RAPL1 Ig3の相互作用PTPδ Ig1:IL1RAPL1 Ig3の相互作用は,PTPδのArg75,Arg95,Arg98と,IL1RAPL1のGlu291とAsp292の間の水素結合を中心としている(図3D).PTPδ Arg75とそれに対応するIL1RAPL1 Asp292の変異体はそれぞれ結合を大きく弱め,確かにPTPδ Ig1:IL1RAPL1 Ig3の相互作用がPTPδ とIL1RAPL1との相互作用に寄与していることが明らかになった.RPTPはシナプスオーガナイザーと相互作用してシナプス形成を誘導する活性のほかに,プロテオグリカンと相互作用して軸索伸長を制御する活性も知られている.10)PTPδ のArg75 はこのプロテオグリカン結合部位でもあり,IL1RAPL1の結合とプロテオグリカンの結合が競合的な関係にあることが示唆される.したがって,IL1RAPL1との結合によるシナプス形成のPTPδ Ig1E291D292R75R98R95IL1RAPL1 Ig3(D)IL1RAPL1 Ig1PTPδ Ig3M75F91Y77 Y273P88(C)KD PTPδ (μM)(B)WTR75AR196AY273AmeB GSSGQLEQELRE x 2ELRE x 30.15 ± 0.0112.8 ± 0.341.7 ± 0.450.86 ± 0.110.14 ± 0.0220.16 ± 0.00260.15 ± 0.0520.42 ± 0.038KD IL1RAPL1 (μM)WTW34AD37AM75A/Y77A/P88A/F91AD292A0.15 ± 0.011ND2.4 ± 0.0162.8 ± 0.482.2 ± 0.075meA9 PTPδ Ig2IL1RAPL1 Ig1L185W34D37R196L153(A)図3 PTPδとIL1RAPL1の相互作用面.(Binding interfacesbetween PTPδ and IL1RAPL1.)(A)IL1RAPL1 Ig1とPTPδ Ig2との相互作用(. B)表面プラズモン共鳴によって求められたPTPδ,IL1RAPL1のそれぞれの変異体の結合の解離定数.(C)IL1RAPL1 g1とPTPδ Ig3との相互作用(. D)IL1RAPL1 Ig3とPTPδIg1 との相互作用.