ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

日本結晶学会誌 第57巻 第5号(2015) 305神経細胞間シナプス形成とその調節メカニズムンは,タンデムにつながった2つのLRRからなる.これらの後終末シナプスオーガナイザーは,IIa 型RPTPに対して等しく結合するのではなく,選択的スプライシングによって生じたバリアントごとに異なる結合能を示す.具体的には,IIa 型RPTPのIg1-Ig3 に2 カ所の挿入ペプチド(meA,meB)が存在し,挿入ペプチドの有無や長さによって,結合に適した後終末シナプスオーガナイザーが異なっている.例えば,PTPδ には,meAに9 残基,6 残基,3 残基のペプチドが挿入されたバリアント(それぞれmeA9,meA6,meA3と呼ぶ)と挿入ペプチドのないバリアント(meA-)が存在する.さらに各々のmeAのバリアントに,meBに4 残基のペプチドが挿入されたバリアント(meB+)と挿入ペプチドのないバリアント(meB-)が存在する(図1B).例えば,同じIL-1受容体ファミリーに属するIL1RAPL1とIL-1RAcPの間でもスプライシングバリアントに対する特異性が異なっており,IL1RAPL1はmeA9とmeBを含むバリアント(meA9/B+)に特に強く結合し,meAの種類の違いや,meBの欠如によって著しく結合能が変化する(図1B).一方,IL-1RAcPはmeAの種類には依存しないが,meBの欠如によって結合が弱くなる(図1B).本稿では,IIa 型RPTPの1 つであるPTPδとIL1RAPL1およびIL-1RAcPとの複合体の立体構造解析と,それによって明らかとなった選択的スプライシング依存的な相互作用制御のメカニズムを紹介する.8)2.PTPδ:IL1RAPL1複合体の結晶構造本稿で述べるPTPδは特に断りのない場合,Fnドメインを4 つもち,Ig1-3 の2 カ所のペプチド挿入がmeA9/B+となっているバリアントである.このバリアントがマウスの発達初期の脳においては最も多く発現している.構造解析のためのサンプル調製として,PTPδ とIL1RAPL1のそれぞれの膜外ドメインの遺伝子をほ乳類細胞内でも複製可能なpEBMultiベクター(Wako Chemical)にクローニングし,浮遊性のHEK293F細胞を用いて,培地内に発現させた(図2A).複製可能なpEBMultiベクターを用いることで一過性の発現でも高発現を維持できるようにし,浮遊性のHEK293F細胞を用いることによって,スケールアップと高密度培養を可能とした.また,シグナル配列を変えることで発現量を向上させた.培地内に発現させたそれぞれの細胞外ドメインをヒスチジンタグによって精製した後,両者を混合して複合体を形成させ,結晶化を行った.その結果,両者の複合体の結晶が得られ,SPring-8 BL41XUにて4.4 A分解能の回折データを得ることができた.さらに,PTPδ のドメインごとに短くしたコンストラクトを作製し,IL1RAPL1との結合を確認したところ,Ig1?2 だけでも結合を示すことが明らかとなった.このIg1?2 を用いて複合体の結晶化を行い,SPring-8 BL41XUにて2.7 A分解能の回折データを得ることができた.このデータを用いて,すでに構造の解かれていたPTPδ のIg1?2ドメインと,IL1RAPL1と相同性のあるIL-1RAcPの構造を用いて分子置換法によって構造を決定した(図2B).次に,この構造に加えて,PTPσのIg3ドメイン,LARおよびPTPδ のFnドメインを用いて分子置換を行い,PTPδ:IL1RAPL1複合体の構造決定を行った(図2C).図2CにPTPδ の膜外ドメイン全長とIL1RAPL1との複合体の全体構造を示す.PTPδ はIg1 からFn3までモデル構築できたが,Fn4からC末端側はディスオーダーしていた.一方,IL1RAPL1はIg1?3 までモデル構築することができた.IL1RAPL1は,全体でL字型に曲がった構造をしている.IL1RAPL1のIg1 はPTPδ のIg2 とIg3 に挟み込まれる形で相互作用しており,さらに,IL1RAPL1のIg3 とPTPδ のIg1との間でも相互作用して3つの相互作用面が形成されている.PTPδ のIg1?2はコンパクトなV字型のコンフォメーションをとり,Ig3 はmeBによってIg2から離れている.Fn1?2は直線上に並んでいるのに対し,Fn3は折れ曲がっている.この構造解析とは独立して,大腸菌発現系を用いて調製したFn1?2 ドメインの構造解析を2 A分解能で行ったところ,同様に直線上に並んだ構造であった.また,同時期にほかのグループから報告されたPTPσのIg1-Fn3の結晶構造も同じくFn1?2が直線上に並び,Fn3で折れ曲がった構造を示しており,Fn3で折れ曲がPTPδ ECDIL1RAPL1Ig1Ig2Ig3Fn1Fn2Fn3Ig1Ig2Ig3meAmeB123(C)IL1RAPL1PTPδ Ig1?2Ig1Ig2Ig3Ig1Ig2 13(B)1 2 3TMTIRIL1RAPL11 2 3 1 2 3 4Ig ドメインFn ドメインTMPTPδPTPδ ECDPTPδ Ig1-2(A)図2 IL1RAPL1:PTPδ複合体の結晶構造.(Crystal structureof PTPδ in complex with IL1RAPL1.)(A)結晶化に用いたコンストラクトの模式図(. B)IL1RAPL1:PTPδIg1?2の結晶構造.(C)IL1RAPL1:PTPδ ECDの結晶構造.3つの相互作用面をそれぞれ楕円と番号で示す.