ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

304 日本結晶学会誌 第57 巻 第5 号(2015)日本結晶学会誌 57,304-309(2015)最近の研究から1.はじめに脳は,1000億以上もの神経細胞が連結して複雑なネットワークを形成している.神経細胞は,神経情報の伝達に特化した非常に特殊な形態の細胞であり,細胞核をもつ細胞体と,ほかの神経細胞からの入力に特化した短い突起上の樹状突起,細胞体から長く伸びてほかの神経細胞への出力を行う軸索からなっている.神経細胞の軸索と樹状突起の接触部はシナプスと呼ばれ,軸索側は神経伝達物質の放出に特化したシナプス前終末と,樹状突起側は神経伝達物質の受容に特化したシナプス後終末にそれぞれ分化している(図1).シナプスの形成には,シナプスオーガナイザーと呼ばれる分泌性タンパク質や接着因子タンパク質がかかわっている.接着因子タイプのシナプスオーガナイザーは,前終末と後終末に存在するシナプスオーガナイザー間の相互作用によって,シナプスへの分化を誘導するだけでなく,その相互作用によってシナプス標的の特異性を決定していると考えられている.IIa型受容体チロシンホスファターゼ(RPTP)は近年注目を集めている接着因子タイプのシナプスオーガナイザーである.1),2)ほ乳類では,3 種のIIa 型RPTP(PTPδ,PTPσ,LAR)が存在し,いずれもN末端側に3つの免疫グロブリン(Ig)ドメインと4 ~ 9 個のIII 型フィブロネクチン(Fn)ドメインからなる細胞外ドメインと,一回膜貫通ドメインを挟んでC末端側にタンデムにつながった2つのホスファターゼドメインをもつ(図1A).IIa 型RPTPの細胞外ドメインは,膜近傍で一度プロテアーゼによる切断を受けるが,疎水性相互作用によって切断後も膜貫通ドメインと結合している.前終末に存在するIIa 型RPTPは少なくとも5種の異なる後終末シナプスオーガナイザー(IL1RAPL1,IL-1RAcP,TrkC,NGL-3,Slitrk)と相互作用して,シナプス形成の惹起と制御を担うことが知られている.3)-7)これらの後終末シナプスオーガナイザーのうち,IL1RAPL1とIL-1RAcPはインターロイキン1受容体ファミリーに属し,3つのIgドメインからなる細胞外ドメインをもつ(図1A).TrkCは,短いロイシンリッチリピート(LRR)と2つのIgドメインからなる細胞外ドメインをもち,NGL-3はLRRと1 つのIgドメインからなる細胞外ドメインをもつ.Slitrk の細胞外ドメイ神経細胞間シナプス形成とその調節メカニズム東京大学放射光連携研究機構生命科学部門 山形敦史,深井周也Atsushi YAMAGATA and Shuya FUKAI: Structural Basis for the Regulation Mechanismof Synapse FormationSynapse formation is triggered through trans-synaptic interactions between selective pairs ofpre- and postsynaptic adhesion molecules. Receptor tyrosine phosphatases (RPTP) can selectivelyinteract with various postsynaptic adhesion molecules in a splicing-dependent manner. Here, wepresent our recent structural studies for the splicing-dependent regulation of the interactions betweenPTPδ and Interleukin-1 receptor accessory protein( IL-1RAcP)/ IL-1RAcP like 1( IL1RAPL1).meAmeBホスファターゼドメインFn ドメインIg ドメインPTPδIg1Ig2Ig3シナプス前終末IL1RAPL1 IL-1RAcPIgIgIgIgIgIgシナプス後終末IgIgIgNTIRTIRESIGGTPIR ELREESIGGTPIR -------GGTPIR ELRE---GGTPIR ----ESI------ ELREESI------ ------------- ELRE--------- ----meA9/B+meA9/BmeA6/B+meA6/BmeA3/B+meA3/BmeA-/B+meA-/BPTPδmeA meB IL1RAPL1 IL-1RAcP(A)(B)0.15 ± 0.0110.80 ± 0.110.81 ± 0.14NDNDNDNDND0.68 ± 0.0132.0 ± 0.0850.73 ± 0.0132.3 ± 0.0160.51 ± 0.0102.8 ± 0.0532.2 ± 0.0752.4 ± 0.075挿入ペプチド配列ND, not detectableKD (μM)図1 PTPδ とIL1RAPL1,IL-1RAcPとのtrans-synapticな相互作用(. Trans-synaptic interactions between PTPδand IL1RAPL1/IL-1RAcP.)(A)PTPδ とIL1RAPL1,IL-1RAcPの相互作用の概念図.(B)表面プラズモン共鳴によって求められた,PTPδ のスプライシングバリアントに対するIL1RAPL1とIL-1RAcPの結合の解離定数(KD).