ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

300 日本結晶学会誌 第57 巻 第5 号(2015)海野昌喜,杉島正一,和田 啓,萩原義徳,日下勝弘,玉田太郎,福山恵一る.いずれにせよわれわれは,中性子構造が本来の構造により近いと考え,Glu76に関しては中性子散乱長密度図に合わせてX線のデータを使わずに精密化し,fix して,再びジョイントリファインメントを行った.このとき,Glu76とBVビニル基の距離は2.7 A程度で異常に短いことはなかった(図3B).また,常温でのX線回折実験の後は,すぐに結晶を液体窒素で凍らせてJ-PARCに持ち帰った.光が通るように結晶を小さく砕いて,抗凍結剤を使って液体窒素中に凍らせて吸収スペクトルを測定した.その結果,やはりPcyA-BV複合体には本来見られない777 nm付近の吸収スペクトルのピークが見られた(図3C).9)少なくともX線回折実験の後には,PcyABV複合体の状態は本来の状態から変化していたことを示している.4.2 解決した問題4.2.1 BVH+の構造中性子結晶構造解析の結果,PcyAに結合したBVのプロトン化状態が明確に決定できた.まず,ラクチム(-N=C-OH)の構造はなく,ラクタム(-N-C=O)の構造をしていることがわかった(図4A).また,BVの4つのピロール環すべてに重水素原子が結合していた(図4A).ただし,そのoccupancyはA環とD環で1.0,B環で0.8,C環で0.6となっていた(図4B).B環ピロールNに付いた水素のoccupancy+C環ピロールNに付いた水素のoccupancyが0.8 + 0.6 = 1.4で有意に1.0より大きく2.0より小さいので,4つのピロール環すべてがプロトン化しているBVH+ ばかりではなく,プロトン化していない(3つのピロール環のみがプロトン化している)中性のBVが混在していることがわかった.この研究では世界で初めてBVとBVH+の混在を可視化し,かつBVH+のプロトン化部位と立体構造を一義的に決定できた.4.2.2 Asp105のプロトン化状態二重のコンフォメーションをとっていたAsp105の一方のコンフォメーション(コンフォメーション1)では,水素原子をモデルに入れる前,片側のO原子近辺に図3 中性子構造とX線構造の違い.(Differences betweenthe neutron structure and the X-ray structure.)A:Glu76周辺の中性子散乱長密度図と電子密度図.青;2Fo?Fc中性子散乱長密度図(0.8 σ),赤;2Fo?Fc電子密度図(2.0 σ),緑;Fo?Fc中性子散乱長密度図(3.5 σ),黒;Fo?Fc電子密度図(5.0 σ),B:Glu76 とBVのD環ビニル基との相互作用.左;“常温”中性子構造,右;“低温”X線構造,C:X線回折実験後のPcyA-BV結晶の吸収スペクトル.PcyA-BVの通常の状態には777 nm付近のピークは見られない.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.図4 ビリベルジン(BV)の水素化状態と周辺の構造.(Protonation states of BV and the surroundingmolecules.)A:ライブラリーに登録されている構造を当てはめて計算したFo?Fc中性子散乱長密度図.B:BVのピロール環のNに付いた水素の占有率.C:Asp105の二重コンフォメーションと水素化状態.緑の籠は,Fo?Fc中性子散乱長密度図.一方のコンフォメーションのみ水素が見える.D:Asp105の二重コンフォメーションと水素結合.E:最近隣水分子.青;水を置かずに計算したX線構造中のFo?Fc電子密度図,緑;対応するFo?Fc中性子散乱長密度図.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.