ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

ページ
38/64

このページは 日本結晶学会誌Vol57No5 の電子ブックに掲載されている38ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No5

296 日本結晶学会誌 第57 巻 第5 号(2015)今田勝巳,小嶋誠司トの組込み活性化機構は次のように考えられる(図7).1)細胞膜中の固定子ユニットは,回転子周囲に来るとPomBの121-153 の領域のどこかでTリングと結合する.2)次にPomBのα1 のN末側がほどけるような構造変化が起こり,OmpA様ドメインが伸び上がり,PG層に結合することで固定子ユニットが固定される.3)この構造変化とカップルしてイオン透過が始まり,モーターが回転する.細胞膜中の固定子ユニットは,OmpA様ドメインがPG層に届かないので,細胞膜中を自由に移動することができる.つまり,固定子ユニットは,不活性な状態ではPomBCがしゃがんだ状態にあり,回転子周囲では立ち上がって活性化,しばらく働くと再びしゃがんで不活性状態となり,細胞膜中を移動するのであろう.8.今後の課題固定子Bサブユニットのペリプラズム領域の構造と構造に基づく機能解析から,固定子ユニットのモーターへの集合とモーターの活性化メカニズムが明らかになってきた.しかし,固定子ユニットが回転子周囲の組込まれる場所をどのように認識し,ペリプラズム領域の構造変化をどのように誘起するのかは明らかでない.また,PG層に結合している固定子ユニットを外すしくみも不明である.特にNa駆動型モーターのNa依存的な固定子の離合集散のしくみはどうなっているのであろうか.最近,べん毛が粘性を感知し,組込まれている固定子の数を変えることでトルクを制御するメカニカルセンシングの機能をもつことが明らかになり,固定子ユニットの離合集散の制御は従来考えられていたよりかなり複雑であることがわかってきた.11)また,回転子とAサブユニットの相互作用が固定子集合にかかわる実験結果が示され,12)Aサブユニットと回転子の相互作用が組込み位置の認識とペリプラズム領域の構造変化のトリガーとなる可能性が指摘されている.固定子にまつわる謎解きには,Aサブユニットを含む固定子ユニットの結晶構造は今後ぜひとも必要である.文 献1) T. Minamino and K. Imada: Trends. Microbiol. 23, 267(2015).2) M. C. Leake, et al.: Nature 443, 355(2006).3) E. R. Hosking, et al.: J. Mol. Biol. 364, 921(2006).4) S. Kojima, et al.: Mol. Microbiol. 73, 710(2009).5) K. Muramoto and R. M. Macnab: Mol. Microbiol. 29, 1191(1998).6) H. Fukuoka, T. Wada, S. Kojima, A. Ishijima and M. Homma: Mol.Microbiol. 71, 825(2009).7) H. Terashima, H. Fukuoka, T. Yakushi, S. Kojima and M. Homma:Mol. Microbiol. 62, 1170(2006).8) N. Li, S. Kojima and M. Homma: J. Bacteriol. 193, 3773(2011).9) S. Zhu, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 111, 13523(2014).10) K. Yonekura, S. Maki-Yonekura and M. Homma: J. Bacteriol. 193,3863(2011).11) P. P. Lele, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 11839(2013).12) Y. V. Morimoto, et al.: Mol. Microbiol. 78, 1117(2010).プロフィール今田勝巳 Katsumi IMADA大阪大学大学院理学研究科Graduate School of Science, Osaka University〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-11-1 Machikaneyama, Toyonaka, Osaka 560-0043,Japane-mail: kimada@chem.sci.osaka-u.ac.jp最終学歴:大阪大学大学院理学研究科博士課程修了専門分野:生体高分子構造・生物物理学現在の研究テーマ:細菌べん毛の構造と機能小嶋誠司 Seiji KOJIMA名古屋大学大学院理学研究科Graduate School of Science, Nagoya University〒464-8602 名古屋市千種区不老町Furo-Cho, Chikusa-Ku, Nagoya 464-8602, Japane-mail: z47616a@cc.nagoya-u.ac.jp最終学歴:名古屋大学大学院理学研究科博士課程修了専門分野:分子生物学・生物物理学現在の研究テーマ:細菌べん毛の構造・機能相関