ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

日本結晶学会誌 第57巻 第5号(2015) 295細菌べん毛モーター固定子の組込みと活性化機構ないが顕微鏡で観察すると泳ぐものがいた.残りの3 組(L160C/V221C,I164C/V179C,L168C/I177C)は野生型と同様の泳ぎを示した.泳いだり泳がなかったり,一見,意味のない結果に思えたが,架橋が実際にできていたのかどうかを調べると,はっきりとした傾向が現れた.架橋の有無は,CysのSH基を検出することで調べた.SH基をビオチンマレイミド修飾後,HRP標識ストレプトアビジンで検出し,DTTなしのときとありのときの検出量を比較した.その結果,泳がなかった2 組(M157C/I186C,I164C/L217C)は完全に架橋されていたが,リングは広がらないが顕微鏡でみると泳いでいた2 組(L160C/I186C,L168C/Q213C)では,架橋されていないCysが検出された.野生型と同様の泳ぎを示したL160C/V221Cは架橋されていなかった.架橋されているにもかかわらず泳いだのはI164C/V179CとL168C/I177C2組で,いずれもα1の164よりもC末側である.つまり,N末側が架橋されると泳がなくなるといえる.このことは,164番目よりもN末側で構造変化が起こることを示している.ところで,変異体が泳げない理由が本当にS-S架橋の生成によるのであれば,還元剤を加えれば,泳ぎが復活するはずである.そこで,まったく泳がないM157C/I186CとI164C/L217Cの2組を還元剤であるDTTを加えた寒天培地上で育てたところ,泳げるようになった(図5c).さらに,この2組に対して,新たなタンパク産生を押さえた状態でDTTを加えて顕微鏡観察を行うと泳ぎ始め,30 分ほどで泳ぐ菌の割合が野生型レベルに達した.これを再びDTTを取り除いた培地に移すと徐々に泳ぐ割合が減り,1時間ほどですべてが泳がなくなるが,ここにDTTを再投入するとまた泳ぎ始めた(図6).このことから,PomB内にS-S 架橋が生じると泳げなくなり,架橋を還元剤で切断すると泳ぎ始めることが確認できた.架橋で構造変化を妨げると固定子が機能しなくなる実験結果は,OmpA様ドメインをPG層に結合するための構造変化を阻害したと解釈できるが,ほかの解釈も考えられる.例えば,架橋が固定子ユニットのモーター周囲への集合を阻害した可能性や固定後のイオン透過を阻害しているためにモーターが動かない可能性も残っている.そこでまず,架橋がかかって完全に泳がなくなる2組のPomB変異体(M157C/I186CとI164C/L217C)のN端をGFPで蛍光ラベルし,固定子ユニットのべん毛の周りへの集合を調べた.すると,野生型と同様にナトリウムに依存した集合を示し,架橋は集合に影響しないことがわかった.海洋性ビブリオの固定子はT-リングに結合するので,架橋がされていてもT-リングへの結合までは正常に行われるといえる.次に,架橋により固定子内にイオンが流れなくなった可能性を検討した.イオンの流れを直接検出することは難しいので,大量発現すると過剰なイオン透過による生育阻害が起きる変異PomB(プラグ領域欠失株)を利用し,架橋の有無による生育阻害を調べることで,架橋のイオン透過に対する影響を調べた.しかし,架橋の有無で生育阻害に差は見られず,イオンの流れの阻害は見られなかった.したがって,架橋によりPG層に結合するための構造変化が阻害された可能性が高い.7.固定子の固定と活性化のしくみ以上の結果をまとめると,Na駆動型の固定子ユニッ図6 DTTに依存した遊泳の阻害と回復.(DTTdependentmotility of the cross-linked mutants.)各時間における遊泳する菌数の割合を示す.●は野生型PomB,■ はM157C/I186C変異体PomB,▼I164C/L217C変異型PomBをもつ菌.図7 モーターへの組込みに伴うNa駆動型モーター固定子の構造変化モデル.(A plausible model ofa conformational change in PomB coupled with thestator assembly around the rotor.)細胞膜中を漂うときはPomBの121-153の領域は折り畳まれている(左).回転子の周囲に来ると,121-153の領域のどこかでTリングと相互作用し,固定子はモーターに組込まれる(中).α1のN端側がほどけてPomBCは伸び上がり,PG層に固定される.同時にNaイオンの流入が始まり,モーターが活性化する(右).