ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

日本結晶学会誌 第57巻 第5号(2015) 293細菌べん毛モーター固定子の組込みと活性化機構伸び上がってPG層に結合することを示唆している.しかし,構造変化が起こることを証明するにはどうしたらよいだろうか.また,イオン透過と構造変化の関係と順序など固定子の組込み活性化のメカニズムはどうなっているのだろうか.3.Na 駆動型べん毛モーターの固定子ユニットMotBCの構造が明らかになった頃,海洋性ビブリオのNa駆動型べん毛モーターの固定子がナトリウム依存的に可逆的に離合集散する現象が見出された.6)これは,固定子の組込みをナトリウムイオンで外から人為的に制御できることを意味し,固定子の組込み活性化機構を調べる上でプロトン型モーターにはない大きな利点である.また,Na駆動型モーターは,固定子を透過するイオン量もナトリウムイオン濃度を変えることで制御できる.そこで,研究対象をNa駆動型モーターに広げることにした.Na駆動型モーターの固定子はPomAとPomBで構成され,PomBがプロトン駆動型モーターのMotBに相当する.ところが,PomBとMotBはOmpA様ドメインの領域には配列相同性が見られるものの,α1からβ1に相当する部分の配列はまったく異なる.また,サルモネラ以外のMotBホモログについてこの領域の配列の二次構造予測を行うと,サルモネラMotBと同様にα1,α2,β1の存在が予測される.しかし,その長さもアミノ酸配列も多種多様で保存されていない.4)さらに,PomBは,PG層に結合するだけでなく,べん毛回転軸の軸受けの働きをするLPリングの下部でTリングを構成するMotX-MotY複合体にターゲッティングし,結合する(図1).Tリングが構成されないと,固定子ユニットは回転子の周りに集合できない.7)PomBはMotBと比べて膜貫通ヘリックスとOmpA様ドメイン配列との間の領域が約40残基長いが,このどこかでTリングに結合すると考えられる.したがって,MotBCの構造情報をそのままPomBに適用する訳にはいかない.そもそもMotBで予想されるような変化をナトリウムモーターにも一般化できるのかという疑問も残る.そこで,PomBCの結晶構造解析を行い,その構造を基に新たな実験を組み立てることにした.4.PomBCの結晶構造解析まず,MotBCのときと同様に,PomBの膜貫通領域とOmpA様ドメインの間に欠失をもつさまざまな変異体の運動能を調べ,PEM領域を特定した.その結果,PomBのペリプラズム領域は121-315 があれば機能を有することがわかった.8)同時に,ペリプラズム側のフラグメントを複数作成し結晶化を行ったところ(図3a),PomBC4 (121-315)とPomBC5(135-315)で斜方晶に属する小さな結晶が得られ,SPring-8 BL41XUおよびBL32XUにて回折実験を行った.照射損傷を減らすため,細いビームでヘリカルスキャンを行い,PomBC4は2.3 A,PomBC5は2.0 A分解能の回折強度データーを収集することができた.当初,MotBCの座標を用いた分子置換法による解析を試みたが,解が見つからないため,重原子置換体を作成してSAD法で解くことにした.結晶化のリザーバー溶液を用いて作成した50%飽和のK2OsCl6溶液にPomBC5結晶を約12時間浸漬した結晶を凍結し,2.1 A分解能の回折強度データーを収集した.K2OsCl6はタンパク質結晶に取り込まれやすく,取り込まれると黄色く色付く.今回はOsのL3- edge(1.14080 A)付近,波長1.1399 Aでデーターを収集したが,L2- edge(1.00140 A)のf ”がL3- edgeよりも大きいのでSAD法で解くのであれば波長1 Aで収集しても位相決定に十分な異常分散データーが得られる.SAD法で位相決定した後,Nativeデーターに対して精密化を行い,PomBC5の構造を決定した.PomBC4の構造は,PomBC5の構造モデルを用いた分子置換法で決定した.図3b にPomBC5の構造を示す.9)両結晶の空間群は同じP212121で格子定数も近く,分子は同様のパッキングであった.また,NC末の領域はどちらも電子密度に現れず,モデルを構築できた領域はどちらも同じ154-306であり,両者の構造はほとんど同じであった.そこで,以下では分解能の高いPomBC5の構造を示して議論する.5.PomBCの構造PomBCはMotBCとよく似た2量体構造をしているが,大きく異なる部分が3カ所あった(図3b,c).1つ目はC端部で,MotBCのC端ヘリックス(α5)がPomBCにはなくdisorder していた.だが,α5 が欠損してもMotBが機能することから,この違いはBサブユニットの機能に重要ではないと考えられる.2 つ目はPG層との結合にかかわる領域に近いβ3 ? α4 loop のコンフォメーションである.しかしこの領域はMotBCの独立な5つの構造(3種類の図3 PomBcの構造.(Structure of PomBC.)a)PomBとPomBフラグメントの一次構造の模式図.b)PomBC5二量体の構造.c)MotBC2二量体の構造.