ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

概要

日本結晶学会誌Vol57No5

日本結晶学会誌 第57巻 第5号（2015） 291日本結晶学会誌 57，291-296（2015）最近の研究から細菌べん毛モーター固定子の組込みと活性化機構大阪大学大学院理学研究科　今田勝巳名古屋大学大学院理学研究科　小嶋誠司Katsumi IMADA and Seiji KOJIMA: Structural Basis of the Assembly and ActivationMechanism of the Bacterial Flagellar Stator ComplexBacteria swim in aqueous environment by rotating the flagellum driven by a reversible motorembedded in the cell membrane. The torque of the motor is generated by the rotor-stator interactioncoupled with the ion flow through the stator. A dozen of stators assemble around the rotor and arefixed to the peptidoglycan layer. The ion-conductivity of the stator is coupled to its assembly, andproper anchoring of the stator is required for torque generation. We determined the crystal structures ofC-terminal fragments of the B-subunit of the stator including the region responsible for anchoring thestator, and performed the functional analyses using the mutants designed based on the structure. Thesestudies revealed that the conformational change of the N-terminal region of the fragment is essentialto form a functional stator around the rotor.1．細菌べん毛モーター1.1　細菌べん毛細菌は，べん毛と呼ばれる繊維状のオルガネラをスクリューのように高速回転させて水中を移動する．細菌べん毛は，生体中で最初に発見された回転機構であり，鞭打ち運動をする精子やミドリムシなど真核生物の「鞭毛」とは構造も動くしくみもまったく異なる．べん毛の回転が証明されたのは1970 年代半ばのことであるが，それまで生体は回転機構をもたないとされていた．べん毛は，約30種類のタンパク質が各々数個から数万個重合してできた超分子複合体で，べん毛基部には直径約40 nmのモーターがある．大腸菌やサルモネラのモーターは，細胞内外のプロトン濃度差を利用し，200 ～ 300 Hz で回転する．一方，海洋性ビブリオのモーターはNaイオンの濃度勾配を利用して1,700 Hzという猛烈なスピードで回転する（図1a）．1）1.2　固定子ユニットべん毛モーターには，電気モーターと同様に固定子と回転子が存在する．モーターのトルクは，内膜に存在する固定子複合体中をイオンが通過する際に起こる固定子複合体と回転子複合体間の相互作用変化に起因すると考えられている．固定子複合体の1ユニットは，4回膜貫通タンパク質であるAサブユニット4 分子と1 回膜貫通タンパク質Bサブユニット2 分子により構成される（図1b）．AサブユニットとBサブユニットの間にあるチャネルをイオンが通るとAサブユニットの細胞質ドメインの構造が変化し，この変化が回転子との相互作用変化を引き起こすことで回転力が発生すると言われている．モーターは，最大約10ユニットの固定子が回転子の周囲に集合して機能するが，1ユニットでも回転子を回すトルクを発生することができる．固定子ユニットよりも質量がはるかに大きい回転子を回すには，固定子ユ図1 べん毛モーターの模式図.（Schematic drawing ofthe bacterial flagellar motor.）a）モーターの構成．b）固定子の構成．