ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

288 日本結晶学会誌 第57 巻 第5 号(2015)藤井康裕,是枝聡肇,清水荘雄,谷口博基0.7の対物レンズを用いて測定を行った.共焦点顕微光学系には角度分解光散乱強度分析装置(ARIA-FS,シグマ光機)を取り付け,偏光方向の回転角を0.05 °より高い角度再現性で電気的に制御し,角度分解測定を実施した.11)本装置は,顕微光学系から分光器に至るまでの偏光配置を乱すことなく後付けできることを特徴としている.試料としたのは(100)面を光学研磨したPT単結晶で,サイズは0.8 × 0.8 ×1.5 mm3であった.マルチドメイン試料であったが,顕微ラマン分光において単分域とみなせる領域について観測を実施し,文献を参照して[010](2回軸)と[001](4回軸)をそれぞれYおよびZ方向に向けて設置した.この光学配置においては,偏光配置に応じてA1 (z),B1,E(y)モードが観測可能である.半波長板を入射光の光軸に一致したX軸周りにθ/2回転させると入射光の偏光方向はθ回転するので,Y軸に対してある角度をもった電場ベクトルをもつ光が試料に入射することとなる.4.実験結果・解析はじめに,平行および垂直ニコル配置においてθ = 0°で観測されたスペクトルを図3a,bに示す.このスペクトルは過去の報告によく一致しており,共焦点顕微系の空間選択性によってシングルドメイン領域の分光が実施できていることを示している.15)次に,ラマン強度の偏光方向依存性を視覚的に捉えやすくするために横軸にラマンシフト,縦軸に偏光回転角をとった段彩図を図4 に示す.すべてのピークの強度は偏光回転に対して明確な角度依存性を示しているが,表1 に示したように,PTの場合,垂直ニコルの角度変化は289 cm-1のB1+Eモードを除けば,sin2 2θ 型あるいはcos2 2θ 型の振る舞いをするので,試料の異方性の情報は角度依存性に明には反映されない.つまり,正方晶系におけるモードの異方性を議論するうえでは,垂直ニコルの強度変化は異方性に関する情報をもたらさないということになる.したがって以下では,平行ニコルにおける実験結果について議論する.平行ニコル配置で観測されたラマン散乱強度の偏光方向依存性を図5a ~ f に黒点で示す.ここでは,各ピークの積分強度をプロットしている.図5a ~ c より,PTのA1 モードについては,その強度が最小となる角度においても積分強度が0とならないことがわかる.これは,219 cm-1と505 cm-1に見られるEモードでは理論的に予測される角度,すなわち平行ニコルでは0 °,90 °,および180°,垂直ニコルにおいては45°と135°において0となっていることとは対照的である.なお,A1 モードのラマンピークは,その強度が最小となる角度においてもピーク形状を維持していたことから,二次ラマンなどの寄与によって強度が0 にならないのではなく本質的な意味をもっていると考えられる.図5中の赤実線は,表1に示した式を用いたフィッティングの結果で,それぞれよくフィットできていることがわかる.なお,148 cm-1 に見られるA1 モードは高い非調和性をもち,複数のローレンツ関数でフィットされることが知られているが,13)ここではモデルに依存するピークフィッティングを用いていないことに注意されたい.すなわち,定量的な角度分解偏光測定はこのように複雑なスペクトルを対象とする場合においても十分に適用可能であることを示している.A1 モードのフィッティングパラメータは,ラマンシフト,|b/a|,φ の順にそれぞれ,(148 cm-1,0.49,0.46π),(359 cm-1,0.62,0.50π)図3 平行ニコルおよび垂直ニコルの偏光配置で得られたPT単結晶のラマンスペクトル. (Raman spectra ofa PT single crystal with parallel- and crossed-nicols.)角度0 °における入射偏光の方向は[010]方向に対応している.図4 チタン酸鉛の角度分解偏光ラマンスペクトルの段彩図. (Contour plots of angle-resoved Raman spectraof PT.)(a),(b)はそれぞれ平行ニコルと垂直ニコルの偏光配置で得られた結果で,角度0°における入射偏光の方向は試料の[010]方向に対応している.