ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

日本結晶学会誌 第57巻 第5号(2015) 287角度分解偏光ラマン分光による結晶性試料の振動モード解析もに回転させることになるため,時として現実的でないことがある.3.チタン酸鉛の角度分解偏光ラマン分光ここでは,角度分解偏光ラマン分光の適用例としてチタン酸鉛(PbTiO3,以下,PT)に関する測定例を示す.PTは769 K以下で正方晶系(空間群P4mm)に属し,強誘電性を示す.強誘電相では鋭い一次ラマンピークを示し,これらは常誘電相における赤外活性な3 本のT1u モードがそれぞれ強誘電相でA1+Eに分裂し,またサイレントなT2uがB1+Eに分裂することに由来する.12),13)ところで,強誘電相においてラマン活性なB1+Eモードは,BurnsやFoster らによってどういうわけか“silent”と表記されて以降,現在に至るまでしばしば“so-called silent”などとされることがある.12),14)-17)その一方で,PT基板上のヘテロエピタキシャル膜やPbMg1/3Nb2/3O3/PbTiO3 超格子などにおいては明確なピーク分離が観測されており,面内応力に対応することが指摘されている.17)-20)角度分解測定では,対称性の異なるピークが近接している場合でもモード分離やラマンテンソル決定が可能であるので,このような系の観測に適している.3.1 ラマンスペクトルの偏光方向依存性対称性P4mm(C4v)の結晶における異方性を評価するには4 回軸([001])を面内で回転させるのが有効であるので,2 回軸([001])の1つをY方向,[001]をZ方向に一致するように試料を設置し,偏光方向を回転させた場合のラマンテンソルを表1 に示す.ここで,θ =0 °は入射偏光が[010]方向に向いていることに対応している.式中のφ は,独立なラマンテンソル要素間の“位相差”である.ラマンソル成分は一般には複素数であって,C4vのA1モードを例にとれば,aabRA1 =? ?? ?? ???????????=? ?? ?? ?????????????a eiφaa eiφab eiφb(6)と表される.ただしここで,“・”は成分が0 であることを示し,φ ≡ φa - φb としている.4)主軸座標系と実験室座標系を一致させて測定する場合においてラマンテンソルの複素性は観測されないが,角度分解測定においてはこの位相差φが光散乱強度の偏光方向依存性に顕著な影響を及ぼす.4),11),21)PTを含む多くのケースにおいて,φ を考慮しなければラマン散乱強度の偏光方向依存性を説明することができず,これを考慮せずに解析を行うと重大な解釈ミスが生じる場合があるので注意を要する.図2 は,|a| と|b| を共通にとり,φ を変化させたときに予想されるラマン散乱強度の角度依存性を示しており,赤線は平行ニコル,青線は垂直ニコルの強度を表している.0 °と90 °における強度はそれぞれ通常の測定配置で観測した場合に対応しており,この場合テンソルの複素性が明に現れないため,同じ値をとっている.一方,平行ニコルの散乱強度の角度依存性はφ の値によって明確にパターンが異なることがわかる.このような実験結果が得られた場合,φの効果を無視してオフセットを入れることによってもフィッティングできてしまう場合があるので,角度分解測定においてφ について議論するにはスペクトルのベースラインを慎重に決定する必要がある.3.2 実験装置・試料本実験では,液体窒素冷却CCDカメラ(Symphony,Horiba)を備えたダブル分光器(U1000,Jobin Yvon)と共焦点顕微光学系(愛宕物産)を用いた.励起光源は波長514.5 nmの直線偏光アルゴンイオンレーザー(GLG3480,NEC)で,試料に入射するパワーは10 mWとし,NA=表1 強誘電相のチタン酸鉛において観測可能なフォノンの対称性のラマンテンソルと,それに対応するラマン散乱強度の偏光方向依存性. (Polarizationdirection dependence of Raman active phonon modesin ferroelectric PT.)φ は独立なラマンテンソル要素間の相対的な位相差.ラマンテンソル散乱強度A1:aab? ?? ?? ???????????I a ba bIa ab bAA112 4 2 42 22 222∝ ++∝? + ⊥cos sincos sin coscosθ θφ θ θφ4 2 sin2 θB1:c ? ?? ?c ?? ? ???????????I cIcBB112 42242∝⊥ ∝cossinθθE:? ? ?? ?? ?????? ?????eeI eI eEE∝⊥ ∝2 22 222sincosθθ図2 強誘電相のチタン酸鉛のA1モードにおいて予測されるラマン散乱強度の偏光方向依存性. (Calculatedplarization-diretion dependences of Ramanintensity of A1 mode in ferroelectric PT with variousphase differences.)(a),(b),(c)はそれぞれ,ラマンテンソル成分の絶対値|a|,|b| を共通にとり,φ =0,π/2,π とした場合の計算結果で,横軸は偏光方向の回転角θである.赤線と青線はそれぞれ平行ニコルおよび垂直ニコルに対応している.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.