ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

日本結晶学会誌 第57巻 第5号(2015) 285日本結晶学会誌 57,285-290(2015)最近の研究から1.はじめにラマン散乱分光は,非接触・非侵襲で物質の対称性やダイナミクスを調べることができ,かつ,温度制御や電場・圧力などの外場印加にも柔軟に対応できる手法である.ラマン散乱は試料固有のラマン分極率(テンソル)に起因し,ラマンテンソルの対称性は試料や格子振動の対称性により特徴付けられるため,系の対称性の変化に敏感である.1)また,ラマンシフトは試料の格子振動や分子振動の振動数を反映することから相転移に伴う静的・動的な異常の検出に有利で,強誘電体,圧電体といった機能性材料の開発,評価に重要な役割を果たしてきた.2),3)従来,ラマン選択則に基づいて格子振動の対称性を特定し,ラマンシフトや線幅,相対強度などを指標として物質の評価が行われてきたが,最近ではラマンスペクトルの偏光方向依存性測定によってラマンテンソル成分を決定するなどして,分子配向やフェロイックドメイン構造,応力分布など,試料の異方性を評価する手段として用いられることも多くなってきた.こうした測定の適用範囲は,強誘電体,圧電体,超伝導体,半導体や高分子など多岐にわたっている.4)-11)ラマンスペクトルの偏光方向依存性を測定する手段としては,大きく分けて機械的に試料を回転させる方法と光学的に偏光配置を回転させる方法があるが,測定の定量性や外場印加測定の容易さなどの面において後者に多くの優位性があるので,本稿では特に後者について詳しく述べる.また,角度分解偏光ラマン分光測定の適用例として,典型的な強誘電体であるチタン酸鉛のラマンテンソルの“複素性”やB1+Eスプリッティングの定量評価について紹介する.11)2.角度分解偏光ラマン分光2.1 ラマン散乱はじめに光散乱の基礎的な事項に触れておきたい.光散乱は,試料に入射した光の電場により誘起された振動双極子による二次放射と捉えることができる.電子分極率テンソルをαとすると,入射光の交替電場E(t)により誘起される双極子モーメントはμ(t)= αE(t)と書ける.電子分極率は格子振動(フォノン),ポラリトンやマグノンといった素励起によって時間的に変調されることがあり,ここでは格子振動によって変調されると考えて格子振動の基準座標Qσ で1次まで展開すると,k方向に偏光した振幅Ek cos ωitの交替電場が入射したときにj方向に誘起される双極子モーメントの大きさはμ α ωα ωj jk k ijk k it E tE t( ) ==cos0 cos(1)+∂∂?? ??? ?Σ αω ωσ σσjkQ k iQ tE t00 cos cos σ (2)と表される.ただしj,kはデカルト座標で,α jk0 は分極率の時間に依存しない成分である.また,簡単のために格子振動をQσ0 cos ωσ tとして複数の格子振動について和をとり,位相関係は無視した.式(2)において第1 項は弾性散乱(レイリー散乱),第2 項がラマン散乱やブリルアン散乱などの非弾性光散乱に対応する.三角関数の積を和に変換すると,第2 項は(ωi-ωσ )および(ωi+ωσ )の角振動数をもつ成分に分けることができ,つまり実験的に角度分解偏光ラマン分光による結晶性試料の振動モード解析立命館大学理工学部物理科学科 藤井康裕,是枝聡肇東京工業大学元素戦略研究センター 清水荘雄名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻(物理系),東京工業大学元素戦略研究センター 谷口博基Yasuhiro FUJII, Takao SHIMIZU, Hiroki TANIGUCHI and Akitoshi KOREEDA:Raman Tensor Analysis by Angle-Resolved Polarized SpectroscopyPhonon properties of lead titanate were investigated by measuring polarization-directiondependence of Raman intensities. Quantitative angle-resolved Raman spectroscopy is advantageousfor detecting anisotropic nature of the sample material since that reflects the symmetry of vibrationalmodes. In this study, a broadband half-waveplate was utilized to establish high quantitativity, stability,and spatial reliability of the angle-resolved measurement.