ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

日本結晶学会誌 第57巻 第5号(2015) 279電子線トモグラフィーによる格子欠陥の三次元観察(図4 53),54)).もちろん,結晶中のすべての転位が可視化されるgを選べば1回の連続傾斜像撮影でよいことになるが,通常の金属材料では高次のgを選ばなければならず,3D画像再構成に十分な転位線コントラストが得られないことが多い.54)将来的には,分割型のSTEM検出器55)を用いるなどにより,多くの回折波gで画像を同時取得してg・b = 0とならない連続傾斜像画像データを一度に取得できるようになるかもしれない.(2) 等厚干渉縞や等傾角干渉縞など,回折条件や試料厚みに敏感な母相の回折コントラストが消える35),36),42),43),53),54),56)-58()図5 59)).その結果,前述したような3D再構成画像に等厚干渉縞が残る33),34)といった問題を回避することができる.(3) 単純な低次反射の2波励起条件で,高コントラストかつ幅の狭い転位線観察が可能になる.42),43),53),54)低次反射は回折強度が大きいので,高角度傾斜時に電子線の透過距離が増大しても転位線のコントラストを維持できる.しかも,収束角のきわめて小さな平行照射の電子線を用いるTEMに比べて転位線が太くならない.図6 は,図4 のSTEM連続傾斜像に対応する連続傾斜電子回折図形である.透過波(hkl =000)ディスクと回折波(hkl = 020)ディスクがすべての試料傾斜角度において2 波励起条件を満たしていることがわかる.TEM-WBDF法とのアナロジーで考えると,高次反射を励起したほうがシャープな転位線のコントラストが得られると思われる.しかし実際には,STEMでは収束角の大きな電子線を通常使うので,高次反射を励起しても低次の系統列反射も同時に励起されてしまい,転位芯近傍とその周囲の母相の像強度の差が小さくなり,結果として転位線のコントラストが高くならないことが多いようである.54)転位のSTEM結像の詳細についてはPhillipsらの論文を参照いただきたい.51),52),60)(4) 色収差の影響が小さい.図7は,試料厚み約800 nmのγ-Fe における転位をTEM(a)とSTEM(b)で観察したものである.59)対物レンズの球面収差補正は商図3 TEM明視野像(b)およびSTEM明視野像(c)におけるα-Feの転位コントラストの回折条件(a)依存性.31)(Dependence of dislocation contrast ondiffraction conditions(a)for TEM bright-field(BF)images(b)and STEM BF images(c).31))平行ビーム照射条件のTEMモードで試料を傾けつつ回折条件を設定し(a),TEMモード(b)とSTEMモード(c)で同一視野を撮影.g(hkl)=310α-Feの2波励起条件(k = g,k は散乱ベクトル)から,励起誤差が正の方向に徐々に回折条件をずらしている(a).図4 2軸傾斜ETによるγ-Fe の転位組織の3D可視化.53)(3D visualization of dislocation substructure in γ-Feby dual-axis ET.53)).[010]軸傾斜のg = 020励起(a)および[100]軸傾斜のg=200励起(b)の条件でそれぞれSTEM連続傾斜明視野像を撮影し,2組の連続傾斜像データから3D画像を再構成(c).(b)では矢印で示した箇所の転位線が消えている.図5 γ-Fe のTEM明視野像(a)およびSTEM明視野像(b).59)(TEM-BF(a)and STEM-BF(b)images ofγ-Fe.59))等厚干渉縞およびイオン研磨による試料表面の格子欠陥コントラストが弱いSTEM(b)では,試料内部の転位線(矢印)が明瞭に観察される.