ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No5

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概要

日本結晶学会誌Vol57No5

日本結晶学会誌 第57巻 第5号(2015) 269日本結晶学会誌 57,269-275(2015)SHELXL入門講座(4)SHELXLを使って双晶を解析しよう!はじめてのMerohedral Twin立教大学理学部化学科 箕浦真生Mao MINOURA:Let’s Use SHELXL against MerohedralTwinning !In this tutorial course of SHELXL, we will focus on how to treat thetwinning by merohedry. Merohedral twinning is not apparent during themeasurement or in the diffraction pattern, and therefore, unsolved twinningand fuzzy molecular structures remain in the data folder. We would liketo show the avoidable pitfalls that are to be considered for the correctmolecular structures using examples of solved merohedral twin crystalsand step by step tutorials for organ(ometall)ic chemists.1.はじめに単結晶X線結晶構造解析の装置とコンピューターおよび解析ソフトウェアの進歩によって,結晶学の専門家でなくとも,一通りの結晶構造解析ができるようになったと言われて久しい.1)近年はCCDやCMOSなどの二次元検出器の普及により微小な結晶でも迅速に回折データを得られるようになり,有機化学系の研究者が13C NMRを測定するのと同程度の労力と時間で「測定」は可能である.また,今では構造決定のための汎用ツールとして単結晶構造解析が用いられ,特に有機金属化合物や有機典型元素化合物の分子構造の議論には欠くことができない.2)結晶構造を解析する上でSHELXシステムはその標準プログラムとして広く使われており,特にSHELXTにおける初期構造を解析する際のIntrinsic Phasing 法は,空間群の判定にも威力を発揮し,その判定誤りによる構造解析の誤りも減少するものと期待できる.3)また「SHELXL入門講座」により,通常の構造精密化は一通りのことが正しくできるようになったと思われる.4)単結晶の測定の健全性が保たれているときに,空間群の決定を間違えていても,構造精密化(解析)が進み,checkCIFや論文として投稿段階の査読で誤りに気づけるかもしれない.5)時には誤ったまま論文として公表され,後から指摘されることもある.6)一方で,多結晶などの理由で測定段階の反射が綺麗ではない,格子定数が求まらないなど解析に至らない場合は,「結晶が悪い」となり,良いデータが得られるまで試行錯誤をすることとなる.しかし,回折画像のスポットも綺麗で,解析に着手し,分子構造は見えているものの,構造精密化のR値が20 ~ 15%程度より下がることがなく,「どうしてよいかわからない(やっぱり結晶が悪い!)」,何度結晶を作り直して測定してもR値が悪く,論文審査に耐えられないと諦めているケースは,表に出てこないだけで潜在的に数多くあるものと筆者は感じている.本原稿では,有機化学系研究者の観点から,「諦めていたデータ」をSHELXLで精密化する際の対処法を,実際の解析例を用いて入門者向けに解説し,「どうすればよいかわかる」ことを目的としている.なお,本稿で使用する表は,大場茂先生・植草秀裕先生の著書7)とInternational図1 綺麗なデータにもかかわらず解析ができないとき,Merohedral twin .(In spite of beautiful reflections,when not knowing how to solve the structure, it’sMerohedral twin.)