ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

SHELXLで乱れの解析をしよう!離だけでなく1…3距離についてもRIGUが適用されることを想定している.これは,連結した3原子を剛体として近似できるからである.4原子になると,一般にねじれ角の自由度が出てくるので,剛体とはみなせなくなる.ISORは,温度因子がどうしても非正定値になってしまうような場合に,応急処置として使う(等方性に近い値に抑制する).EADPは,結晶格子の同じサイトを違う元素が占有するようなディスオーダーの場合などに使う(温度因子が共通になるように拘束する).なお,抑制のコマンドには標準偏差も入力できるようになっているが,default値(プログラムで設定している標準値)はよく考えて設定されているので,通常は入力せずにそのまま用いる.その標準偏差が小さい程,抑制が強いことを意味する.例えば,RIGUではDELUよりも強い抑制が設定されていることがわかる(表1参照).2.2幾何構造の束縛乱れている部分は,原子間の距離や角度がどうしても歪んでしまう.そこで理想的な1-2および2-3距離になるように抑制するのがDFIXであり,さらに1…3距離を抑制することで妥当な1-2-3結合角を保つためのコマンドがDANGである.なお,標準的な結合距離が不明の場合でも,結晶内の化学的に同じ構造部位について,SADIやSAMEコマンドを使って,対応する1-2や1…3距離を似た値に抑制することができる.芳香環など本来は平面であるべき部分が歪む場合には,それらの原子が平面を保つように,FLATを使って抑制する.また,ベンゼン環の炭素6原子のうち,3原子の座標がわかっていれば,AFIXコマンドを使って,残り3原子も含めて正六角形の剛体として拘束することもできる.また,ある炭素原子の周りの3本の結合が平面上にあるはずなのに,三角錐型に変形してしまうときは,CHIVコマンドを使って平坦に(つまりその炭素原子のキラル体積を0に)抑制することができる.金属原子に配位した水分子の水素の座標を精密化する際などに,非結合原子間距離が異常に短くなるようなときは,BUMPコマンドを用いて基準値よりも接近しないように抑制できる.2.3原子座標や占有因子の束縛結晶中の同じサイトに異なる元素が混在しているような場合,EXYZコマンドを用いて原子座標を同一に拘束することができる(そのような場合,温度因子もEADPを用いて拘束する必要があるであろう).一般位置におけるディスオーダーのときに,可能な配向が2つであれば,FVARコマンドの引数(つまり自由変数)を使って,一方がx,他方が1-xとなるように,占有因子を拘束しながら精密化することができる.可能な配向が3つ以上のときは,表1の下部に示したように,それぞれの占有日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)因子を自由変数として精密化し,それらの和が1になるようにSUMPコマンドを使って抑制をかける.ここで,注意しなければならないことがある.原子のその位置での存在確率をPと表すと,CIFではこれを原子の占有率(occupancy)と定義している.ただし,SHELXLでのj番目の原子の占有因子をmjと表すと,それは次のような関係にある.m j=(g j/G)P j(1)ここで,Gは一般位置の多重度(つまり単位胞中の等価点の数)で,gjはその原子位置の多重度である.原子の占有因子mを用いることにより,特殊位置でも一般位置でも区別することなく,構造因子の計算の際に非対称単位に含まれる原子について,和をとることができる.無機結晶中などにおけるイオンの電荷に関しても,(占有因子を考慮しながら)和をとり,それが0であれば結晶の電荷が中性であるといえる.すなわち,j番目のイオンの電荷をqj,占有因子をmjとすると,次式が成り立つ.S jm jq j=0(2)この和は,非対称単位中の原子についてとる.3.乱れた分子構造モデルの組み立て3.1めざすゴールディスオーダーの解析において最優先すべきことは,合理的な構造モデルを組み立てることである.R因子がより低くなったとしても,結合距離が異常であるとか,化合物の合成法や結晶の育成条件から考えてあり得ないような構造モデルではだめである.ただし,解析の際は,理想的な構造モデルに抑え込むということよりも,できるだけ回折データから構造の情報を引き出すことも大切である.したがって,ディスオーダーの解析には試行錯誤が伴う.つまり,いろいろと試しながらゴールをめざすことになる.3.2解析手順の概要まず,乱れていない部分の非水素原子をすべて非等方性で精密化し,乱れている部分は原子の占有率を例えば0.5として等方性で精密化する.そして,D合成のピークの中で可能性のあるものを,分割原子(つまり複数の位置に分かれて存在する原子の一部)として追加する.温度因子が異常に大きくなってしまうものは削除し,温度因子がほかの乱れた部分の原子とほぼ同程度になるように,占有率をおおまかに調整する.このようにして最小二乗法をくり返し,乱れた構造部分に対する非水素原子位置の情報を集める.この段階では,まだ結合距離や角度の束縛をかけない.また,乱れていない構造部分の水素原子は可能な範囲で導入する.ディスオーダーは多くの場合,2つの可能な配向(仮149