ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

日本結晶学会誌57,147-154(2015)SHELXL入門講座(2)SHELXLで乱れの解析をしよう!慶應義塾大学自然科学研究教育センター大場茂Shigeru OHBA: Let’s Use SHELXL against Disordered Structures !The second lesson in this tutorial course of SHELXL includesrestraints and constraints of the geometrical as well as the atomdisplacement parameters, and the strategy of the modeling and refinementof the disordered structures. Treatment of a troublesome disorder ofpentane around the special position will be illustrated. The effect ofrandomly distributed solvents may be corrected either by a bulk solventapproximation or by using PLATON/SQUEEZE as a filter. Some examplesof disordered inorganic structures are shown, where the atom occupationfactors have been restrained to maintain the electric neutrality of thecrystals.1.はじめにX線構造解析の関門は3つある.1つ目は結晶化である.2つ目は位相問題であり,X線回折データが得られたとしても,構造が解けるとは限らない.ただし,回折計の性能が上がり,また直接法のプログラムが発達し強力になったため,この2番目の関門は,以前に比べると非常にハードルが低くなった.低分子化合物については,ほぼハードルがなくなったといっても過言ではない.ただし,消滅則から可能な空間群が複数考えられる場合には,結晶学的な知識をもとに,ユーザーが判断しなければならない.このハードルも,新しいプログラムSHELXT 1)が開発されたことで,なくなりつつある.そして,3番目の関門がディスオーダー(構造の乱れ)である.これはすべての結晶にあてはまるわけではないが,低分子の構造解析をしていると10件中に1回位は遭遇する.2013年7月時点で,ケンブリッジ結晶構造データベースに登録されている約70万件の構造について,何らかのディスオーダーがあるものは,その内の23%であったという.2)結晶の中でよく見られるのは,分子の一部あるいは結晶溶媒が2通りもしくはそれ以上の可能な配向をもつような乱れである.これは,手ぶれした写真の画像と同様に,複数の電子密度分布のパターンが重なっているため,ピークが不明確となり,原子位置の特定が困難になる.メーカー提供のパッケージプログラムは,年々便利になり自動化(およびブラックボックス化)が進んでいるとはいえ,ディスオーダーの処理については,ユーザーが自分で乗り越えなければならない.このときに力日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)を貸してくれるのが,SHELXLの束縛用コマンドである.その使い方をマスターすれば,複雑なディスオーダーにも対処できるようになる.なお,ここで述べるSHELXLのコマンドの説明は,プ3ログラムの作者G. M. Sheldrickが公開している資料)に基づく.また,本稿で使用する図表や乱れの解析例は,4筆者が書いたX線構造解析の本)の内容と重なる部分も多い.その点,ご了承願いたい.2.束縛用コマンド結晶中で乱れている部分は,原子の占有率が例えば20~50%程度に下がるので,炭素原子といえども電子密度のピークが低くなり,温度因子を非等方性にすると熱振動だ円体が異常な形になりやすい.あるいは非正定値(non-positive definite)になってしまう.せっかく構造モデルの初期値が組み立てられたとしても,精密化の段階で構造が歪んでしまっては,ゴールにたどり着けない.このため,各種の束縛用コマンドがSHELXLに用意されている.それを組み合わせて使い,収束へ向かうようにコントロールする.束縛のコマンドの代表例を,用途ご5とに分類して表1に示した.なお,1回目の解説)でも述べたが,抑制はrestraintそして拘束はconstraintに対応する.ここで注意すべきことは,必要以上に束縛を使わないことである.抑制や拘束はあくまでも,パラメータの異常な値を防止するための対策であり,正常な範囲とみなせる部分まで無理に束縛する必要はない.2.1温度因子の束縛よく使うコマンドは,SIMUとDELU(あるいはRIGU)である.分子構造の一部が2つの配向AとBをとり,占147