ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

クリスタリット造精密化についての入門講座として,田中信夫著,日本結晶学会誌48, 387(2006)タンパク質結晶構造解析入門―ブラックボックスの中身(4)がある.204(北海道大学先端生命科学研究院田中勲)リボソームRibosome地球上のすべての生物の細胞に存在する細胞内小器官で,タンパク質合成の場として働く.mRNAに転写された遺伝情報をもとに,アミノ酸が結合したtRNA(アミノアシルtRNA)を呼び込んで,塩基配列のとおりにアミノ酸をつないでタンパク質を合成する過程は「翻訳」と呼ばれる.リボソームは,大小2つのサブユニットからなり,両者の界面に活性部位がある.小サブユニットは遺伝暗号の解読を,大サブユニットはアミノ酸をつなぐ機能(ペプチド転移活性)を担う.リボソームの存在は,すでに1950年代の中ごろには知られていたが,詳細な立体構造が決定されたのは21世紀の初頭である.(北海道大学先端生命科学研究院田中勲)ピロリ菌Helicobacter Pyloriピロリ菌は,胃の中に生息する微生物で,胃がんや胃潰瘍,慢性胃炎の原因となると考えられている.強酸性の環境下である胃の中に生息する微生物がいるのか,いないのか,長らく論争になっていたが,ウォーレンとマーシャルの2人によって,初めてその存在が証明されたのみならず,彼らによってピロリ菌と疾病の関係もはっきりとした形で証明された(コッホの原則の立証).その後,ウォーレンとマーシャルは,その功績が認められ,2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞している.現在,ピロリ菌と疾病の関係はさまざまな角度から研究されている.本誌で取り上げたCagAもその1つで,地域によってCagA遺伝子の情報が異なっていることが明らかになっている.大きく分けるとCagAは東アジア型,欧米型に分類され,東アジア型のCagAのほうが,毒性が高い.このような違いが,日本を含む東アジアに胃がんの多い原因と考えられている.(高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所千田俊哉)天然変性領域Intrinsically Disordered Region長らくタンパク質の機能は,その立体構造と切っても切れない関係があると認識されてきた.そのため,タンパク質の結晶構造解析が盛んに行われ,その立体構造と機能の関係が議論されてきた.しかしながら,次第にタンパク質中には一定の立体構造をとらない部分があることが知られるようになるとともに,特に核内タンパク質において,一定の構造をとりそうにないアミノ酸配列,例えば酸性残基の異常な回数の繰り返し配列などが見つかるようになってきた.その後,1999年のWrightらの論文を皮切りに,これらの不規則な構造しかもたない部分が,ほかのタンパク質と相互作用をして特定の構造をとり,シグナリングなどの機能をもつことが次第に明らかになってきた.このような天然変性領域は細菌よりも真核生物において顕著に観察され,核内の転写関連タンパク質で特に顕著である.現在ではその“構造”と機能の関係を探ることは盛んに行われている.(高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所千田俊哉)メカノケミカル反応Mechanochemical Reaction用語の定義には議論があり,詳細は近年の総説(S. L.James, et al.: Chem. Soc. Rev. 41, 413(2012))に記述がある.IUPACの発行しているGold Bookでは“Mechano-chemicalreaction”を「物理的な力を直接吸収することによって誘起される化学反応」と定義している.元々は高分子の分野で使用されており,物理的な力(せん断,粉砕,伸縮)によってラジカル生成などを起こし,化学結合が変化する反応を示していた.しかし現在では,“Mechanochemical reaction”として,より広い分野で使われており,物理的な力によって引き起こされる化学反応一般のことを示す.近年,化学分野で注目されているメカノケミカル反応としては,ボールミルや乳鉢を用いて固体物質を粉砕・混合することにより有機分子・有機金属錯体・合金・金属酸化物の合成を行う反応や固体の塩形成,共結晶形成などがある.広義の定義では反応系に溶媒が存在しても物理的な力が作用して進行する反応であればメカノケミカル反応としており,LiquidAssisted Grinding(LAG)などと呼ばれる.溶液中では起こらない反応や特異な反応生成物を与えることがあり,広く注目を集めている.(東京工業大学藤井孝太郎)動的蒸気吸脱着測定Dynamic Vapor Sorption(DVS)対象となる試料周りの溶媒蒸気圧(主に水蒸気圧)を変化させ重量の変化を調べる方法.試料の溶媒吸脱着速度や,蒸気吸着等温線を測定することができる.医薬品,化粧品,多孔性材料,食料品などの溶媒吸脱着特性を調べるために用いられる.例えば医薬品の場合,結晶格子内に取り込まれた水の量が変化することで,溶解度などの性質が大きく変化することがある.そのため湿度変化に対する結晶相の変化や安定性を調べることは重日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)