ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

クリスタリット斉炭素について,キラル体積の値を束縛することで,その周りの絶対配置を保つことができる.また本来,平面となるべき構造が,ディスオーダーなどのために折れ曲がってしまうようなときは,プログラムに指示してキラル体積が0になる(つまり4原子が同一平面内に存在する)ように抑制することができる.(慶應義塾大学自然科学研究教育センター大場茂)タンパク質の位相決定法Phasing Methods for Protein Crystallography非正定値Non-positive Definiten×n対称行列A(行列要素a ij)が任意の行ベクトルx=(x 1, x 2,…xn)に対して,Q=x A x|=S iS ja ijx ix j>0を満たすときに,二次形式Q(あるいは行列A)は正定値であるという.ここで,x|はxを転置した列ベクトルを意味する.もし,場合によりこの二次形式Qが負になるときは,非正定値であるという.結晶構造解析において,変数として精密化する非等方性温度因子U ijは,3×3対称行列の要素である.そして,逆格子ベクトルa*,b*,c*を用いて,結晶内の任意の方向の単位ベクトルqを次のように表すと,q=q 1(a*/a*)+q 2(b*/b*)+q 3(c*/c*)その方向の原子の平均2乗変位〈u q2〉は,次のような二次形式として与えられる.〈u q2〉=S iS jU ijq iq j平均2乗変位(あるいは温度因子の行列)は正定値でなければならない.このため,U ii>0などの条件が課される.逆に非正定値であると,原子の変位を熱振動楕円体として描けなくなる.(慶應義塾大学自然科学研究教育センター大場茂)キラル体積Chiral Volume構造精密化プログラムSHELXLのマニュアルに出てくる特殊用語の1つであり,原子の周りの結合による立体的な配置を数値化したものである.ある非水素原子がほかの3つの非水素原子と結合しているときに,それら4原子が形成する四面体の体積をその原子のキラル体積と呼ぶ.SHELXLでは,原子名に基づいてそれらの非水素原子を順位付けし,その立体配置がある決められた順番に従うときはキラル体積を正とし,もし鏡像の配置の場合には負とする.これにより,例えばa-アミノ酸の不日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)結晶からの回折データを測定する際には,位相情報は失われてしまう.結晶構造を得るためには,この情報を回復する必要があるが,そのための方法として,直接法,重原子法,同形置換法,異常散乱法などの方法がある.タンパク質の構造解析では,1950年代に行われたヘモグロビン,ミオグロビンの構造解析以来,長い間,同形置換法が唯一の位相決定法として使われてきたが,放射光が普及するにつれて,異常散乱現象が位相決定に利用されるようになった.中でもタンパク質の中にあるMet(メチオニン)をSe-Met(セレノメチオニン)に置換してSe(セレン)の異常散乱をもとに構造解析を行う方法は,汎用的な位相決定法として,多くのタンパク質の構造解析に使われている.最近ではS(イオウ)の異常散乱を利用した位相決定も可能になっている.タンパク質の位相決定法についての入門講座として,中川敦史著,日本結晶学会誌48, 249(2006)タンパク質結晶構造解析入門―ブラックボックスの中身(2)がある.(北海道大学先端生命科学研究院田中勲)タンパク質の構造精密化Protein Structure Refinementタンパク質の結晶構造解析で最初に得られるモデルは,通常,大きな誤差を含んでいる.そのモデルを改良する過程を構造精密化と呼び,モデルから計算した構造因子の振幅F calと測定した構造因子の振幅F obsが一致するようにモデル(原子座標や温度因子)を動かす.タンパク質結晶は一般に回折能が低く,得られるデータに比べて精密化すべきパラメータが多いので,低分子結晶で使われるような通常の精密化ではうまく収れんしない.そのためにさまざまな計算法(条件付き最小二乗法,エネルギー最小法,分子動力学法など)が開発されてきた.計算機の高速化によって,最近では,最尤法を組み込んだプログラムも普及している.実際の構造精密化では,これらの方法によって得られたモデルをもとに新しい電子密度図を計算しなおし,グラフィクスを使ってその電子密度に合うようにモデルを改良する過程(フィッティング)をはさんで,計算とフィッティングを,交互に繰り返すことで徐々に構造を収れんさせる.タンパク質構203