ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

インクジェットテクノロジーを利用して親水性ゲルで結晶をループに固定する技術図3結晶とループの自動認識を行うための画像処理.(Image processing to automatically recognize loops and crystal.)(a)背面からのLED投光を行った顕微鏡CCDカメラの画像.(b)背面からのLED投光に拡散版を取り付けて撮影した顕微鏡CCDカメラの画像.(c)顕微鏡CCDからの画像に画像フィルターを適用した画像.(d)顕微鏡CCDカメラで撮影したループの画像.水平な線はモーターの回転軸を,垂直な線は(e)で逆投影を行った位置.正面からの投光を行っている.(e)フィルターなし逆投影を行った結果((d)の垂直な線の位置での断面の画像).(f)逆投影により得られた立体モデル.モデル周りに表示されている複数の菱形は開発段階で利用したゲルの目標位置を表す.(g)CCDカメラからの画像.(h)フィルター補正逆投影により認識した結晶とループのCGモデル.(g)の画像とモデルが一致する.な像を得た(図3g,h).このようにして,ループと結晶の認識を機械が自動で行うことが可能となったが,初期の画像処理プログラムは一度の計算に10分程度の時間が必要であり,高速化が必要であった.必要とする計算速度を得るにはプログラムの最適化だけでは達成できない.そこで,近年計算能力の伸びが著しいグラフィックボード(GPU)を使った並列計算(GPGPU)を利用した.GPUは多数の演算ユニットを搭載(本研究で利用したGPUでは1152個搭載)しており,並列計算を行うことにより非常に高い演算能力を利用することができる.また,複数のパソコンを利用する計算用クラスタと異なりメモリと演算ユニットや演算ユニット間のデータ転送が圧倒的に高速であることが利点である.本研究ではGPGPUの1つであるNVIDIA社のCUDA技術を利用した.CUDA技術を利用した画像処理プログラムに作り直すとともに計算の最適化を行うことで最終的に計算時間を1ミリ秒以下にまで短縮できた.画像処理は画像の領域ごとに同じ計算を行うことが多く並列演算に向いており,CUDAととても相性が良いため十分な高速化を達成できた.これにより,ループの撮影からループと結晶の認識までを約3秒で,結晶へのゲル溶液の塗布まで入れて約7秒程度という短時間で自動的に結晶を固定することができるようになった.日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)高速な画像認識技術は本研究以外でも有用な技術であり,現在は放射光での結晶センタリングの自動化への活用に向けて取り組んでいる.放射光利用者の皆様の実験のお役にたてば幸いである.また,結晶拾いの自動化を支える基礎技術としても役立つと考えている(本誌,155-162ページ参照).6.まとめ,および,今後の展望本研究によりタンパク質結晶を器具に固定することが可能となった.これによりこれまで熟練した研究者が手作業で1つ1つのタンパク質結晶を取り扱っていたものが,今後は機械による取り扱いが可能となった.またタンパク質結晶への創薬候補化合物の全自動ソーキングの技術的なボトルネックが取り除かれ,パイプラインの構築が可能となったことでリガンドソーキングのよりいっそうのハイスループット化が可能となった.リガンドソーキング実験が自動化されることにより,全自動リガンドスクリーニングが可能になれば,創薬スクリーニングは飛躍的に加速される.この手法はまた,生化学的な阻害剤結合実験,抗凍結剤の探索,重原子置換体の探索,3)結晶性を上げるため4の結晶脱水実験)にも利用できる.さらに,結晶が治具に固定されることで結晶の移動を自由にかつ厳密に管201