ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

藤岡優子,野田展生の関連タンパク質であるMad2などに見られるHORMAドメインによく似ていたことから,それまで単にN末端ドメインと呼ばれていたこの領域はHORMAと命名された.Mad2はオープンとクローズの互いにトポロジーの異なる2つの安定なコンフォメーションをとるとされているが,Atg13 HORMAはMad2のクローズ構造に類似していた.Atg13は上述のa/bフォールド以外に,ほかのHORMAタンパク質には見られない固有の短い3本鎖の逆平行b-シート構造をもち,それが帽子のようにHORMAフォールドに被さっていた(図5B).Mad2との構造の類似性から,Atg13 HORMAも2つのコンフォメーションの存在が議論されているが,Atg13固有の帽子がクローズ構造を固定しているように見えること,オープン構造をもつという実験データはこれまで報告されていないことから,今後のさらなる検証が必要である.Atg13 HORMAは下流因子のPASへのリクルートに必要であることが示されたが,直接の結合相手はわかっていない.7.オートファジーの始動モデル以上述べてきた知見から考えられるオートファジーの始動モデルは次のようなものである(図6).富栄養条件においてAtg13のIDRはTORにより高リン酸化されており,そのうちAtg13 MIM(C)のリン酸化がAtg1との結合を減弱し,またAtg13 17BRのリン酸化がAtg17との結合を強く阻害している.飢餓によりAtg13が脱リン酸化されると,Atg13 MIM(C)がAtg1との結合に加わることでAtg1とAtg13との親和性が増強され,またAtg13 17BRがAtg17と強く結合することでAtg1複合体(Atg1-Atg13-Atg17-Atg29-Atg31複合体)が完成する.Atg1複合体はPAS形成の足場として働き,Atg13のHORMAなどを介して下流因子のリクルートを行うとともに,活性化したAtg1のKDがさまざまな因子をリン酸化することで下流にシグナルを伝え,オートファジーが始動する.8.おわりにこの総説では筆者らが最近報告した,出芽酵母におけるAtg1複合体の形成機構を中心に紹介したが,哺乳類ではULK1,Atg13,FIP200,Atg101のつくるULK1複合体がオートファジーの始動について同様の役割をはたすことが知られている.9)ULK1にはAtg1のMITドメインが保存されていることから,Atg13との相互作用はMITドメインとMIM領域との相互作用と考えられる.しかし,出芽酵母においてAtg1との結合の制御にはたらいているAtg13 MIM(C)のもつSerは哺乳類のAtg13において保存されておらず,実際に,ULK1複合体は栄養状態にかかわらず常にAtg13と結合していると報告されている.一方,Atg17とFIP200との配列相同性は低いが,Atg17と同様にFIP200もコイルドコイルタンパク質と予測されること,また,機能的にも類似していることから,FIP200はAtg17の機能ホモログと考えられている.14)哺乳類の場合,FIP200もまた恒常的にULK1と複合体を形成していると報告されている.14)しかしながら,Atg13-Atg17間結合のリン酸化による厳密な制御を目のあたりにすると,哺乳類におけるAtg13とFIP200との結合もまたリン酸化により何らかの制御を受けていると思わざるを得ない.実際,哺乳類Atg13もmTORによるリン酸化の制御を受けている.例えば,ULK1複合体の状態を保ったまま,構成タンパク質のドメイン間結合の組み替わりなどが,脱リン酸化によりひき起こされないだろうか.酵母Atg1複合体と並行して,哺乳類ULK1複合体の構造研究も進めていくことで,両者に共通する普遍的なメカニズムを明らかにできると期待される.謝辞本稿で紹介した研究は,東京工業大学の大隅良典博士,横浜市立大学の平野久博士らのグループとの共同研究で行われました,深く感謝いたします.回折実験は,SPring-8(課題番号2013A1001,2013B1005)および高エネルギー加速器研究機構(課題番号2013G543,2013R-42,2009G143)で行いました.本研究は,科学研究費補助金新学術領域研究,日本学術振興会特別研究員奨励費およびJST CRESTの支援を受けました.図6Atg1複合体の全体モデル.(Schematic model of theAtg1 complex.)天然変性領域は線で示した.数字は残基番号を示す.文献1)N. Mizushima and M. Komatsu: Cell 147, 728(2011).2)N. Mizushima, T. Yoshimori and Y. Ohsumi: Annu. Rev. Cell. Dev.Biol. 27, 107(2011).3)K. Suzuki, T. Kirisako, Y. Kamada, N. Mizushima, T. Noda and Y.Ohsumi: EMBO J. 20, 5971(2001).4)K. Suzuki, Y. Kubota, T. Sekito and Y. Ohsumi: Genes Cells 12, 209(2007).196日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)