ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

オートファジーの始動を制御する複合体の立体構造Atg17のAsp247と水素結合を形成しており,Atg13 17BRとAtg17との結合に必須であった.このSerがリン酸化されることはAsp247との水素結合を破壊するだけでなく,電荷的な反発もひき起こす.実際に,Ser429をAspに置換したAtg13変異体はAtg17との結合を示さなかった.また,この変異体を発現した株ではPASの形成がまったく見られず,オートファジー活性もほとんど示さなかった.リン酸化Ser428,Ser429を含むAtg13の断片を合成し,それを抗原に用いることでこれらリン酸化Ser特異的に認識する抗体を作製し,生体におけるリン酸化の状態を確認したところ,富栄養条件においてはリン酸化が検出されたが,ラパマイシン処理あるいは飢餓条件においてリン酸化はほとんど見られなくなった.すなわち,Atg13のSer428およびSer429は富栄養条件においてリン酸化されており,飢餓により脱リン酸化することが示された.以上のことから,Atg13とAtg17との結合はAtg13のSer428およびSer429のリン酸化によって負に制御されていることが明らかになった.6.複合体形成には関与しない領域の構造これまでに紹介した構造解析により,Atg1複合体を構築する相互作用の全貌が明らかとなった.しかしAtg1およびAtg13に関してはその一部の領域しか複合体形成に直接関与せず,したがって大部分の領域は複合体の構造解析に含まれていない.Atg1はC末端側のtMIT以外に,N末端側にキナーゼドメイン(KD)を,またKDとtMITを繋ぐ領域に約250アミノ酸からなるIDRをもつ.一方,Atg13は上述のように大部分がIDRであるが,N末端側に唯一硬い構造を取ったHORMAドメインをもつ.Atg1のヒトホモログであるULK1のKDおよび耐熱性酵母L.thermotoleransのAtg13のHORMAについて,それぞれの結晶構造が最近報告された.11),13)6.1ヒトULK1のKDの結晶構造ヒトULK1のKDの結晶構造は,阻害剤との複合体として分解能1.56 Aという高分解能で決定された.13)一般的にキナーゼドメインは大腸菌から発現,精製することは難しいが,この著者らはプロテインホスファターゼとの共発現などさまざまな工夫を行うことで,大腸菌からのULK1 KDの発現,精製に成功した.さらに良好な結晶を得るために阻害剤をスクリーニングし,Aurora-Bキナーゼ阻害剤などに代表されるピラゾール-アミノキナゾリン誘導体を共結晶化に用いることで良質な結晶を得ることに成功した.ULK1のKDの全体構造は,図5Aに示すように標準的なキナーゼフォールド,すなわちN-lobeとC-lobeの2つのサブドメインからなり,N-lobeは6本のb-ストランドからなるb-シート1つと1本のa-ヘリックスから日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)図5 ULK1 KDとAtg13 HORMAの構造(Crystal structuresof ULK1 KD and Atg13 HORMA)A:ULK1 KDの結晶構造(PDB 4WNO).B:Atg13 HORMAの結晶構造(PDB 4J2G).構成され,C-lobeは主にa-ヘリックスから構成されていた.ATP結合部位は通常このlobeの間の溝に位置するが,共結晶化した阻害剤はまさにこの溝に入り込んで結合していた.ULK1のKDは2つのlobeの間に特徴的な長いループをもつが,配列上はAtg1のほうがより長いループをもつ.ULK1のキナーゼ活性の活性化のためにはC-lobeに挿入された活性化ループ中のThr180がリン酸化を受けることが重要であるが,大腸菌から調製したULK1はThr180が自己リン酸化を受けていた.結晶構造中で,リン酸化されたThr180は保存された2つのArgと塩橋をつくることにより活性化ループの構造を固定し,KDの構造を活性型に保っていた.ULK1のThr180はAtg1ではThr226に相当し,実際に出芽酵母内でリン酸化されていることが確認されている.また,Atg1においてもこの残基のリン酸化はAtg1のキナーゼ活性の上昇やオートファジーの誘導に必須である.ULK1のKDの表面電荷を見ると,ATP結合部位の裏側に大きな塩基性の領域が確認された.この領域はオートファゴソームや隔離膜などの膜構造,もしくはULK1のtMITドメインなどと結合する可能性が議論されたが,13)実験的な知見はない.Atg13はAtg1に結合することでAtg1のキナーゼ活性を上昇させる.筆者らが決定したAtg1 tMIT -Atg13 MIM複合体構造には広い酸性面が存在することから,この酸性面がAtg1のKDの塩基性面に結合することによってKD内になんらかのコンフォメーション変化を誘起し,その結果キナーゼ活性が上昇するというのがもっともらしい仮説となるが,その検証のためにはKDを含めたAtg1-Atg13複合体の立体構造の決定など今後の研究の進展が期待される.6.2 Atg13のHORMAドメインの結晶構造Atg13のHORMAドメインの結晶構造は,単体で分解能2.3 Aで決定された(図5B).11)Atg13のHORMAは5本鎖の逆平行b-シートを中心としたa/bフォールドをとっており,4本のa-ヘリックスがb-シートの片面に配置していた.このトポロジーはスピンドルチェックポイント195