ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

藤岡優子,野田展生きささっていたAtg13 MIM(N)のPhe468あるいはLeu472をAlaに置換した変異体を用いて等温滴定型熱量測定により解離定数を求めたところ,Atg13 MIM(F468A)はAtg1 tMITに対し解離定数が34 mMと野生型と比べて約100倍の値(結合の低下)が得られた.また,Atg13 MIM(F468A L472A)は同じ条件では結合を示さなかった.このことから,結晶中で見られたAtg13 MIM(N)とAtg1 tMITとの疎水性相互作用は実際にこれらの結合において重要であることが明らかとなった.次に,Atg1 tMITとAtg13 MIM間の結合のオートファジーにおける意義について出芽酵母を用いて調べた.この変異体を発現した株では,Atg13 MIM欠損変異体を発現した株と同様に,飢餓条件においてもPASの形成が起こらず,オートファジー活性も示さなかった.また,Atg1の活性化の指標であるAtg1の自己リン酸化もこの変異体を発現した株では起こらなかった.これらのことから,得られたAtg1 tMIT -Atg13 MIM複合体の結晶構造は妥当なものであり,Atg1 tMITとAtg13 MIMとの結合がオートファジーにおいて必須であることが明らかになった.4.Atg13-Atg17間相互作用の構造基盤とそのオートファジーにおける役割Atg13におけるAtg17結合領域をin vitroプルダウン実験により探索した結果,Atg13のIDRに存在するわずか13残基の領域(残基番号424~436)がAtg17との結合に十分であることがわかった.そこでこの領域をAtg17 binding region(17BR)と命名した.上述したL.thermotoleransに由来するAtg17-Atg29-Atg31複合体の8結晶構造)を参考にして大腸菌における共発現系を構築した.複合体のタンパク質を発現精製した後,相同性の解析から同定したL. thermotoleransに由来するAtg13 17BRを共結晶化し,Atg13 17BR -Atg17-Atg29-Atg31複合体の結晶構造を分解能3.2 Aで決定した(図3C).12)Atg17-Atg29-Atg31複合体部分の構造は,上述した三者複合体の構造とほぼ同等であった.Atg13 17BRはAtg17のN末端付近にある疎水性ポケットに2つの疎水性残基Phe430およびIle433をつきさして結合しており,さらにSer428およびSer429によりAtg17のAsp247と水素結合を形成していた.得られたAtg13 17BR -Atg17-Atg29-Atg31複合体の結晶構造をもとに変異体の解析を行った.等温滴定型熱量測定の結果,野生型Atg17とAtg13 17BRとの解離定数は1.2 mMという値を示したが,Asp247をAlaに置換したAtg17変異体ではAtg13 17BRとの結合は観測されなかった.相互作用にかかわるほかの残基の重要性についても,in vitroプルダウン実験や免疫沈降実験により確認した.また,出芽酵母を用いた解析の結果,Asp247をAlaに置換したAtg17変異体を発現した株は飢餓条件においてもPASの形成が起こらず,オートファジー活性も示さなかった.以上の結果から,得られたAtg13 17BR -Atg17-Atg29-Atg31複合体の結晶構造は妥当なものであり,Atg13 17BRとAtg17との結合がPASの形成およびオートファジーにおいて必須であることが明らかになった.5.Atg1複合体の形成制御機構5.1 Atg13 MIM(C)の脱リン酸化がAtg1との結合を増強するAtg13とAtg1,Atg17の相互作用についての構造基盤を明らかにすることができたので,次にこれらの相互作用がどのように制御されているのかを明らかにすることにした.これまでの報告から,Atg13の主にTORによるリン酸化レベルが栄養条件によって変化し,それが複合体形成のスイッチのON/OFFを制御していると想定されたので,7)質量分析法によりAtg13のリン酸化の状態を調べた.具体的には,TORの阻害剤であるラパマイシンを処理した出芽酵母から精製したAtg13と未処理の出芽酵母から精製したAtg13とを比べることにより,ラパマイシンの処理によりリン酸化のレベルが低下する51の残基を同定した.12)ラパマイシン依存的に脱リン酸化された残基はAtg13 MIM(N)には含まれずAtg13 MIM(C)に含まれていたことから,Atg13 MIM(C)に存在する5残基のSerをAspに置換することでリン酸化をミミックした変異体(5SD)を作製した.免疫沈降実験において,この変異体はラパマイシンを処理してもAtg1との結合はほとんど見られなくなった.等温滴定型熱量測定により解離定数を求めたところ,Atg1 tMITとAtg13 MIMの5SD変異体との解離定数は1.2 mMという値を示した.この値はAtg1 tMITと野生型Atg13MIMとの解離定数の約3倍であったことから,Atg13 MIM(C)はAtg13 MIM(N)とAtg1 tMITとの結合をリン酸化により十分には増強できず,その結果,生体におけるAtg1-Atg13複合体の量は大きく減少すると考えられた.そこでAtg13の5SD変異体を出芽酵母に発現させると,変異体を発現した株では野生型を発現した株に比べオートファジー活性が顕著に低下していたが,そのレベルはAtg13 MIM(C)欠損変異体を発現した株と同程度であった.すなわちAtg13 MIM(C)のリン酸化は,Atg1との結合を完全に阻害するのではなく,複合体の形成量を減少させていると考えられた.5.2 Atg13 17BRの脱リン酸化がAtg17との結合を誘導するAtg13とAtg17との結合もAtg13のリン酸化が制御の鍵をにぎっていると考えられたので,前述の質量分析法によって同定されたリン酸化残基についてAtg13 17BRに注目したところ,Ser428およびSer429が含まれていた.Atg13 17BR -Atg17-Atg29-Atg31複合体の結晶構造解析の項で述べたように,Atg13のSer428およびSer429は194日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)