ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

オートファジーの始動を制御する複合体の立体構造させることで,Atg9小胞同士をつなぎとめる可能性が議論されている.8)しかしながらそのためにはAtg29-Atg31が何かのシグナルに応じて凹領域から離れる必要があるが,そのような現象は確認されておらず,さらにAtg17の膜への結合自体が確認できていない.Atg17の特徴的なS字構造の分子機能解明には,さらなる研究が必要である.3.Atg1-Atg13複合体の構造とそのオートファジーにおける役割Atg13はN末端にHORMAドメインをもつが,11)それ以外の約450残基は天然変性領域(Intrinsically disorderedregion, IDR)と予測される天然変性タンパク質である.Atg1との結合領域を同定した結果,IDRにある62残基(残基番号460~521,本稿における残基番号およびアミノ酸の種類は,すべて出芽酵母の場合)がAtg1との結合において必要十分であり,この領域が実際に天然変性状態であることが円偏光二色性スペクトル測定により確認された.12)Atg1はN末端側にキナーゼドメインをもち,C末端側には保存されたAtg13結合領域が存在する.Atg1のAtg13結合領域とAtg13のAtg1結合領域は,どちらも単独で大腸菌内発現させるには不安定であった.そこで大腸菌内で共発現させることでタンパク質を安定化させ,複合体を精製することに成功した.Atg17-Atg29-Atg31複合体の項でもあったが,当初はこれも出芽酵母に由来する遺伝子を用いてタンパク質の結晶化を行ったが失敗に終わり,次にタンパク質の立体構造がより安定であると考えた耐熱性酵母K. marxianusに由来する遺伝子を用いてタンパク質の結晶化を行った.その結果,良好な結晶の調製に成功し,それぞれの結合領域のみの小型化したAtg1-Atg13複合体の結晶構造を分解能2.2 Aで決定することができた(図4).12)Atg1のC末端領域は6本のaヘリックスからなっており,これらは互いによく似ている2つの逆平行3-ヘリックスバンドルを形成していた.そして3-へリックスバンドル同士図4Atg1-Atg13複合体の結晶構造.(Crystal structure ofAtg1-Atg13 comlex.)PDB 4P1N.日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)が密接に相互作用することにより,1つの球状構造を形成していた.最近,Atg1のC末端領域が膜に結合し,膜の局率を感知するという報告がなされたが,8)この結晶構造は少なくともBARドメインなど,膜の局率を感知する既知のドメインとの相同性はなかった.興味深いことに,Atg1の2つの3-へリックスバンドル構造は,どちらも多胞体経路に関与するタンパク質に見られるMIT(microtubule interacting and transport)ドメインに相同性があったことから,N末端側からそれぞれMIT1およびMIT2と命名した.一方,Atg13は2本のaヘリックスがループでつながれた構造をとっており,N末端側のaへリックスはMIT2と,C末端側のaへリックスはMIT1と結合していた.Atg1とAtg13の結合の様式は,上述の多胞体経路に関与するESCRT(endosomal sorting complexrequired for transport)タンパク質などにおいて,タンパク質間相互作用に用いられるMITドメインとMIM(MITinteractingmotif)領域との結合の様式と類似していた.そこで,Atg13のAtg1結合領域全体をMIM,そのN末端側をMIM(N),C末端側をMIM(C)と命名した.一方,Atg1のAtg13結合領域全体(MIT1+MIT2)はtandemMIT(tMIT)と命名した.Atg1 tMITとAtg13 MIMの相互作用はおもに疎水性相互作用であり,MIT1あるいはMIT2それぞれの表面にできた疎水性の溝にそってAtg13 MIMのもつ2つのaへリックスが結合していた.Atg1 tMITはAtg1のヒトホモログであるULK1にも保存されているが,ULK1の2つのMITドメインはヒトのAtg13のIDRにある約60残基の領域と安定な複合体を形成することを確認した.このことから,Atg1 tMITとAtg13 MIMとの相互作用の様式が進化において保存されていることが示唆された.得られたAtg1 tMIT -Atg13 MIM複合体の結晶構造をもとに欠損変異体の解析を行った.等温滴定型熱量測定により解離定数を求めたところ,Atg13 MIM(N)はAtg1 tMITに対し解離定数が2.5 mMの結合を示したのに対し,Atg13 MIM(C)は同じ条件では結合を示さなかった.つまり,Atg1 tMITとAtg13 MIMとの相互作用は主にAtg13 MIM(N)により担われていることが明らかになった.しかし,Atg13 MIMとAtg1 tMITの解離定数は0.36 mMで,Atg13 MIM(N)より7倍強い結合を示したことから,Atg13 MIM(C)が補助的にはたらくことでAtg13 MIM(N)とAtg1 tMITとの結合を強固なものにしていると考えられた.この結果と一致して,in vivoの免疫沈降実験でもAtg13 MIM(C)の欠損でAtg1 tMITとの結合が弱くなり,Atg13 MIM(N)の欠損ではAtg1 tMITとの結合は完全に失われた.つまり,Atg13 MIM(N)はAtg1 tMITに対して基底レベルの結合を維持する一方,Atg13 MIM(C)を用いてより強固な結合を作り出すという作用機序が考えられた.結晶構造においてAtg1 tMITの疎水性のポケットにつ193