ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

日本結晶学会誌57,191-197(2015)最近の研究からオートファジーの始動を制御する複合体の立体構造(公財)微生物化学研究会微生物化学研究所藤岡優子,野田展生Yuko FUJIOKA and Nobuo N. NODA: Structural Basis of Starvation-induced Assemblyof the Autophagy Initiation ComplexAutophagy is an intracellular bulk degradation system conserved from yeast to human. Assemblyof the pre-autophagosomal structure(PAS)is one of the most important events in starvation-inducedautophagy. Recently, the structures of the autophagy initiating Atg1 complex that constitutes the PAScore have been solved by X-ray crystallography. In this review, we summarize current knowledgeregarding the structure and the molecular mechanism of starvation-induced assembly of the Atg1complex and propose the current model of autophagy initiation.1.はじめに細胞内での恒常性維持にはタンパク質などの合成と分解が適切に調節されることが重要である.細胞内での分解経路は大きく分けて2つある.1つはユビキチン-プロテアソーム系,もう1つはオートファジー-リソソーム系である.前者がユビキチンによって標識された分解対象のタンパク質のみをプロテアソームが分解するシステムなのに対し,後者は分解対象を特定せずにランダムに包み込み,リソソームまで輸送し分解するシステムである.オートファジーが分解する対象はタンパク質だけでなく多岐にわたっており,ミトコンドリアやペルオキシソームなどのオルガネラや,細胞内に侵入した病原体をも分解対象とする.1)オートファジーが誘導されると,新規に膜構造が形成され,分解対象を包み込みながら伸長していく.この膜は隔離膜と呼ばれ,最終的に端がつながり二重膜により包まれたオートファゴソームとなる(図1).2)オートファゴソームは一重の膜ではなく二重膜(脂質二重層が二重になっている)である.ここがほかの細胞内膜動態と比べてオートファジーの膜形成の非常に面白いところであり,多くの研究者を惹きつけているが,脂質の由来や二重膜の形成機構については多くの議論があり,いまだ結論が出ていない.引きつづいてオートファゴソームの外膜が液胞あるいはリソソームと融合し,オートファゴソームの内膜と内容物が消化酵素により分解される.出芽酵母ではオートファゴソームの形成の過程において18ものオートファジー関連タンパク質(Atgタンパク質)が必須であることがわかっている.2)これらAtgタンパク質は液胞の近傍にあるPAS(pre-autophagosomalstructure,前オートファゴソーム構造体)と呼ばれる構造体に集積する.3)PASは電子顕微鏡でもその姿が捉えられておらず詳細は不明であるが,オートファゴソーム形成過程において構成するタンパク質が変化する,ダイナミックなタンパク質複合体と考えられる.隔離膜はPASから形成されるので,PASの構造および機能を明らかにすることはオートファゴソームの形成の分子機構を知るうえで必要不可欠である.飢餓によって誘導されるオートファジーではAtg17-Atg29-Atg31複合体がPAS形成における上流の分子である.4),5)Atg17-Atg29-Atg31複合体は,栄養条件にかかわらず2:2:2の複合体を形成しているが,6)ここに栄養セン図1オートファジーの進行モデル.(Schematic model of autophagy.)日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)191