ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

ページ
49/80

このページは 日本結晶学会誌Vol57No3 の電子ブックに掲載されている49ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol57No3

自己組織性イオン液体の設計に基づくジャイロイド構造の構築とその解析および応用図11アルキル鎖末端に重合基を有する扇型アンモニウム塩.(Structure of an ammonium salt monomerhaving polymerizable groups at the extremity of theirlong alkyl chains.)図12デザインした両親媒性化合物と用いたイオン液体の構造.(Structures of a designed amphiphilicmolecule and ionic liquids used.)い確率で接近でき,ラジカル重合反応が効果的に促進したためであると考えられる.2.6リオトロピック液晶を用いた設計ある種の両親媒性分子に溶媒を添加することで液晶性を発現するものをリオトロピック液晶という.溶媒の添加量によって,両親媒性分子と溶媒が形成する界面曲率が大きく変化するため,発現する液晶相を自在にコントロールすることができる.イオン液体の研究の加速に伴い,イオン液体を溶媒としたリオトロピック液晶の研究も盛んに行われるようになってきた.イオン液体中における分子の組織化挙動は,一般の分子性溶媒中と大きく異なることも明らかとなりつつある.われわれは,適切にデザインした両親媒性分子とイオン液体を組み合わせることで多様なリオトロピック液晶を構築してきた.28)-30)これらの組み合わせの中で,双連続キュービック相を発現する系の開発にも成功している.30)図12に示した両親媒性分子1は単独ではカラムナー相を発現するが,イオン液体IL1を少量(モル比で9:1~7:3程度)の割合で添加すると双連続キュービック相を発現する.これは化合物1のジエタノールアミン部位とイオン液体IL1が高い親和性を示し,協同的に相分離構造を形成するためであると考えられる.一般に,リオトロピック液晶相は添加する溶媒の割合が発現する液晶相に大きな影響を与える.この系についてもイオン液体の添加割合を調整し,相図を作製した.図13aに示すように,シリンダー状のカラムナー相を発現する領域と,レイヤー状のスメクチック相を発現する領域の中間において双連続キュービック相が発現する様子が伺える.ところが,この両親媒性分子1とイオン液体IL2を同様に複合化し,相図を作製してみたところ,双連続キュービック相の発現は観測できなかった(図13b).イオン液体IL1とIL2の構造を比較すると,イミダゾリウムカチオンのアルキル基中のエーテル構造の有無の違いしかない.エーテル構造はプロトンアクセプターとして機能することから,これら二種のイオン液体には水素結合能に違いがあることが予想され,その違いが双連続キュービック相の発現を決定的に支配していると考えられる.イオン液体を用いたリオトロピック液晶設計において,イオン液体の構日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)図13両親媒性分子1とイオン液体IL1またはIL2との複合体のリオトロピック液晶性をまとめた相図.(Phase diagrams of mixtures of amphiphilic molecule1 and ILs.)造を制御し,両親媒性分子との相互作用をいかに制御するかが重要な鍵であることを示す代表的な研究例である.現在,これらの知見をさらに裏付けるために,多彩なイオン液体構造とその物理化学的性質が誘起するリオトロピック液晶性に及ぼす効果について総括的に解析している.31)3.まとめ本稿において,イオン液体を基幹材料とした双連続キュービック液晶(ダブルジャイロイド構造を形成する液晶)の設計とその応用展開について記した.双連続キュービック液晶は,液晶材料の中でもデザインの難しい材料であるが,イオン液体の構造多様性を巧みに利用することでさまざまな双連続キュービック液晶材料を生み出すことができた.これらの液晶材料は三次元的に連結したイオン性チャンネル構造を有しているため,効率的なイオン伝導挙動を示した.これらの知見は,双連続キュービック液晶の物質輸送材料としての有用性を強く示唆するものであり,今後の材料化学および高分子化学・超分子化学の発展に大きく寄与できると期待される.謝辞本稿を記すにあたって,シンクロトロンX線回折実験およびその実験結果解析において御助力いただいた189