ブックタイトル日本結晶学会誌Vol57No3

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概要

日本結晶学会誌Vol57No3

一川尚広,大野弘幸,吉尾正史,加藤隆史域は,アニオンの存在位置に対応すると考えられる.このようにして差電子密度マップを作成したところ,図9bに示すような電子密度分布を得ることができた.この電子密度分布は「アニオンは三次元的なチャンネル構造の真ん中に存在していること」を示している.上記のようなX線測定による直接的な構造解析だけではなく,アルキル鎖長の異なる類似化合物の液晶性を比較して液晶相を判断することも重要なアプローチである.例えば,扇型アンモニウム塩分子Am-nの長鎖アルキル基の炭素数nを12,14,16と伸長すると,発現する液晶相はカラムナー相へと変化する.非相溶の二成分の体積バランスと発現する液晶相の相系列は一般的な相順列があり,どちらか一方の成分の増大に伴い,スメクチック相→双連続キュービック相→カラムナー相→ミセルキュービック相の順に発現する液晶相が変化することがわかっている.23)このような順列と,実際の化合物に観測される相挙動を比較することでも,相の同定を行うことが可能である.特に,双連続キュービック相やミセルキュービック相など,偏光顕微鏡観察で光学組織を観察できない液晶相を同定する場合においてはこのアプローチは有効である.2.4三次元イオン性チャンネルの機能連続した相は物質移動の場として機能することが考えられる.扇型アンモニウム塩Am-nが形成する三次元イオン性チャンネル構造の物質輸送パスとしての有用性を評価するために,イオン伝導度測定を行った.測定は交流インピーダンス法を用いて行った.一般に,このような液晶性イオン液体(イオン性液晶)のイオン伝導度を測定すると,ポリドメイン状態(ドメインによって構造の配向がランダムな状態)ではドメイン界面においてイオン性ドメインが断絶するため伝導度は低くなるが,液晶サンプルに何かしらの配向処理を施して電場に対し図10扇型アンモニウム塩のイオン伝導度挙動.(Ionicconductivity of wedge-shaped ammonium salts Am-n.)て並行方向にイオン伝導パスを形成している場合には高い伝導度が観測されることが報告されている.15)化合物Am-nは,図10に示すようなイオン伝導挙動を示した.図10の横軸は絶対温度の逆数,縦軸はイオン伝導度の対数をプロットしたものである.化合物Am-10(○)は,双連続キュービック液晶状態で高い伝導度を示し,等方相転移する過程で大きく伝導度を損ねている.また,化合物Am-12(△)は同様に双連続キュービック液晶状態で高い伝導度を示すが,ポリドメインのカラムナー液晶相へと転移する過程で伝導度を大幅に低下させる.双連続キュービック液晶相は三次元的なチャンネル構造を有しているがゆえに,ドメイン界面においてもチャンネルの連続性を失うことなく,効率的な物質輸送を可能にしていると考えられる.2.5ダブルジャイロイド構造の固定化液晶は自発的に精緻なナノ秩序構造を形成する魅力的な自己組織化材料である.しかし,過剰な溶媒や熱の印加条件下においては,その集合構造は乱されてしまう.このような欠点を克服した研究として,液晶性分子のアルキル鎖末端に重合基を導入し,液晶状態で重合し,液晶ナノ構造を維持したポリマー材料の設計が挙げられ24る.このアプローチにより,レイヤー状)・シリンダー25状)26),27・ジャイロイド状)の構造を固定化し,精緻なナノ秩序構造を有するポリマーフィルムが開発され,そ24)-26れらの固体電解質)27・サイズ選択的分離膜)などへの研究が達成されてきた.本研究で焦点を当てている双連続キュービック液晶材料についても同様のアプローチにより集合構造を固定化できれば,新たなナノチャンネル材料の創製に繋がると考え,扇型アンモニウム塩分子Am-nをモデル分子とし,図11に示したような扇型アンモニウム塩モノマーを設計・合成した.この分子は三本の長鎖アルキル基の内の二本に重合基としてジエン基を有しているところに特徴がある.このモノマーは単独またはリチウム塩との複合体状態において双連続キュービック相を発現する.この液晶材料に1 wt%程度の光ラジカル発生剤を混ぜ込み,液晶状態で光照射を行ったところ,ジエン基の重合が進行し,自立性のポリマーを得ることができた.重合後のポリマーについて偏光顕微鏡やX線散乱測定により構造を解析したところ,重合後も双連続キュービック構造(ダブルジャイロイド構造)を維持していることがわかった.モノマーサンプルは昇温に伴い25℃付近で等方相転移してしまうのに対して,重合後のサンプルは100℃以上に加熱しても構造を維持していた.ジエン基の重合が高い効率で進行しナノ構造の維持に大きく寄与したためであると考えられる.26)効率的な重合が進行した理由として,液晶状態において,アルキル鎖は液体に近い分子運動性を有しているため,モノマー同士が高188日本結晶学会誌第57巻第3号(2015)